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そういうところが

教室の綺麗なドアをゆっくり開ける。


俺は勢いよく階段を駆け上がったために、はあはあと息を切らしている。

結花の方に目をやると、俺がやってくるとは思っていなかったのか、驚いている感じだった。


「どうしたの、ゆうくん?」


結花はさっきまで紙の上を走らせていたペンを置いて、微笑んでみせる。ほんのすこし、いつもより寂しそうな笑顔だと感じた。俺のせいなんだけど。罪悪感で胸がキリキリと痛む。


「……最近あんまり話したりできなくてごめん!」


俺は勢いよく頭を下げて謝る。


「……ちょっと寂しかったんだよ?後輩ちゃんと一緒にいるの見てると。あの子と、どういう関係なの?」

「なんか憧れられてたみたいで……」


 結花は、さっきより寂しそうな感じはなくなっていたものの、普段と比べるとだいぶ冷たいような気がする声だった。

俺の中3の時の話から、さっき告白されて断ったってことまで全て話す。


洗いざらい話終わったあと、しばらく間が空く。

その静寂を、さっき俺が喋ってたことを頭の中で整理していたらしい結花が破る。


「へぇ……『友達から始めよ?』みたいなこと言ったんだねー、ゆうくん」


机に視線を落とした結花がぼそっと低い声で言う。いつもよりトーンが2、3段低い。


「あー……近いことは言ったけどそういう意味ではないというか……!」

「ふーん、そうなんだ」


 俺が慌てふためいて言うと、結花はゆっくりと顔を上げると、じとーっと湿り気のある目線を向けてくる。湿度90%。


ねえ、ちょっと待って。なんか結花が怖いんだけど。絶対ダメなスイッチ入れちゃったよ。


わあ、初めてこんな表情見た!とか悠長なこと言ってられない。まあ、こっち向いてないから、実際には俺から結花の表情は見えてないんですけどね。

 ……いい加減にしろ、俺。お前が悪いんだからな。


「……でも、そういうところが、ゆうくんの良いところだと私は思うよ?」

「え、そうなのかな」

「うん! 誰も傷つかないように気遣う優しさも、誰でも助けられる強さも、ね? ……その優しさと強さを、私のために使ってくれたら尚良し、かな」


結花は顔を上げて、俺の方を覗き込んで優しく微笑む。さっきまでの表情とはまるで違う笑顔だ。


「ゆうくんのそんなところが、私は好きだよ」


結花は俺に人差し指を向けて、宣言する。

突然の言葉に、俺が目を丸くして立っていると、結花も少し恥ずかしくなったのか目をそらす。


さっきのダーク結花は演技だったか、とほっと胸を撫で下ろす。あれがガチだったら今後の俺はかなり危険だ。

これまでよりかはかなりましになるだろうけど、姫宮は俺のとこに寄ってくると思うから。


あ、友達ならいいよ、って姫宮に言ったのは選択肢ミスったかも、と今さらながら思う。頭抱えたくなってきた。


「じゃあ、帰ろっか?」

 「そうだね」


結花が立ち上がった瞬間、ちょうど風がカーテンを揺らす。

鮮やかな夕日が外から差し込んでくる。

その暖かな光で、結花の流れるような美しい黒髪が輝いているように見える。


その姿はやっぱり、この世界で一番美しいと感じる。結花のことを大切にしたいと改めて強く、強く思った。


「今日は、手繋いで帰ろう」

「あ、うん! まあ最近なかなか話したりできなかったからそれぐらいはしてもらわないとね? 手を繋いでもらうぐらいじゃ、足りないかも」


結花はいたずらそうに、にやっと笑って言う。


「うん、寂しがらせないように気を付ける……」

「あはは、いいよ。でももっとゆうくんはモテることに気付かないとダメだよ! 思ってるより皆に狙われてるかもだよ!」

「そうだね。 ほんと気を付けますっ!」


俺たちは笑いながら、教室を後にした。結花はいつもより、俺の近くに寄って、腕を抱きしめるようにしてくっついてきてくれた。

 久しぶりで、そう感じただけかもしれないけど。

 だとしても、結花の腕から、安心できる温もりを感じたのは間違いない。


 








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