ホワイトデー
結花の到着を告げるインターホンが鳴る。
朝早くから今日の準備は整えたから、大丈夫だ。
「おはよ、ゆうくん」
「うん、おはよ」
いつもと変わらず、玄関前には天使がいる。
俺は背中に隠した左手で袋に入れたクッキーを優しく持っている。
「渡したいものがあるんだけど」
「うん!」
俺がそう言うと、結花は暖かな朝の光みたいに眩しい笑顔を見せる。
「これ、どうぞ」
「ありがとー! 今、食べてもいい?」
「もちろん!」
結花が袋を開けて、最初の一口を食べるのを見守る。
どんな感想が飛び出すのか、どきどきしながら待つ。
「美味しい!ゆうくんが頑張って作ってくれたのが分かる、優しい味だよ」
「そ、そう?」
「うん! やっぱり手作りの味っていいよね」
「そうだね、いつも俺は結花の手作り料理食べさせてもらってるから……もっと感謝しないといけない」
「ゆうくんは真面目だなー」
でもほんとに、結花には感謝してもしきれないほどなんだ。
ずっと頼ってばっかりだし。
「どうしたの、ゆうくん? なんか難しそうな表情してる」
結花が少し首をかしげて、俺の顔をじっと見つめながら聞いてくる。
計算せずにこんな可愛い仕草が出てくるものなのか? 結花の場合、たぶん計算なんかしてないんだろうけど。
「え、そう? ……まあ、考え事はしてた」
「ん、どうしたの?」
「結花」
俺は真面目な表情になって結花のことをじっと見る。
「へっ!? な、なに?」
不意打ちに驚いたのか、結花は顔を真っ赤にしておどおどしてる。
「いつもありがとう」
「あ、こちらこそ! 私もゆうくんのおかげで毎日楽しいんだからね?」
「俺もそうだよ」
我ながらさっきはガチムードを作ってしまった気がした。プロポーズでもするのかってぐらい。
でも、感謝は伝えていかなきゃ。
どれだけ思ってても、言葉にしなければ伝わらないんだから。
これからもっと伝えていこう。
そう考えながら、駅への道を2人で歩いた。
3月らしい温かい風が吹いた気がした。
よく考えるとホワイトデーってイベント自体サプライズ感はゼロだよな。
暇な保健の授業中にそんなことを考える。
バレンタインデーでなにかしらもらった相手にお返しするってイベだから。
いつかちゃんとサプライズしたいもんだなあ。
誕生日とか良さそうだな。
……まだ知らないけど。
次の課題は
『結花の誕生日を調べて、サプライズプレゼントをする』だ!
次は師匠に頼らず自分で道を開きたいです。(たぶんなんかアドバイス求める)
あ、ちゃんと橘さんにもお返ししたので安心してください。
苦味強化チョコどころか普通の手作りチョコすらも作ることができない俺は、コンビニでカカオ70%のチョコを買った。
「わりと普通の選んできてるじゃん
あんたにしてはいい方じゃない?」
「なんか上から目線では?……いつものことだけど」
最後は聞こえるか聞こえないかぐらいの小声でぼそっと言う。
「……なに?」
「いえ、なんでもないですー」
来年こそは苦味強化チョコをプレゼントしてやろうと決意した。
なんならカカオ豆そのままでもいいな。
まあ、今後の結花との関係をさらに深めていくためにも共通の友人の存在は大きい。
適度に上手くやっていこう。目の前で結花といちゃついて嫉妬されない程度にね。
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