優希、動きます
「先に私がしてもいいですか?」
「いいよー」
まだ胸がうるさい。
たぶん今すぐプレイしてもまともに腕前を見せられない。落ち着け、俺。
「あれ……? 上手くいきません……」
アームには引っ掛かっているが、持ち上げるときにすぐに落ちてしまう。
流石にこれは負けられない。今まで数えきれないほどプレイしてきたからね!!
「もうちょっと色んな角度から見た方がいいかも」
「わかりました、!」
まあでもなかなか上手くいかない。
「一回やってみせてもらってもいいですか?」
「おっけ」
めっちゃ一ノ瀬さんに見られながらプレイする。
いや、プレッシャーかかりすぎなんですが!?
「何取ってほしい?」
「あれが欲しいです!」
そう言って一ノ瀬さんが指さしたのは、なんか可愛い猫のキャラが描かれたお財布だった。
(めっちゃ意外……)
これがギャップ萌えってやつなんだろう。
クール系美少女がこれ持っているのを想像するだけで尊い。
その姿を拝むためにも、この戦いには負けられない。
「おっけ」
100円を入れてスタートする。
5プレイもいらない。一回で十分だ!!
(タグとかついてないから難しいな)
慎重に位置を確認してアームを動かす。
(ここだ!)
ジャスト。あとはアーム君が頑張るだけだ。
(そこ、そこ!)
アーム君はお財布をしっかり掴んでくれた。
(あと15cm、頑張れ!)
「おっしゃ!」
財布が取り出し口の所に落ちてくる。
勝ちました。
「ありがとうございます!
これから使います!!」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
一ノ瀬さんは笑顔を見せる。
それだけで俺も凄く良いことをしたような、幸せな気分になる。
「次どこ行こっか」
「そうですねー、服見に行きたいです」
「いいねー」
一ノ瀬さんにはどんな服でも似合うだろうな。
家事代行のときの服も格好いいし。
そして歩き出そうとするのだが、人が多くて思うように進まない。
やっと店の外に出た。
「いや、全然進まなかったね、、!?」
右にいる一ノ瀬さんに話しかけ……
え。あれ。一ノ瀬さんがいない。やば。
急いで人の間を縫うように戻っていく。
何回か人にぶつかった気がする。
(すみません……)と心の中で謝る。
見つけた……
でもなんかチャラそうな大学生ぐらいの男たちが絡んでる。
ようやくその場までたどり着いた。
「今日1人で来てるの?」
「……友達と来てます」
「女の子ならその子も連れてきてよー」
「……っ」
「俺、だけど。残念だったね、男で」
騒がしい店内の音に負けないぐらい大声で言う。
「は?」
そいつらが一斉に俺の方を見る。
で、俺のとこに詰めよってくる。
(なんだこいつら……)
どうする、俺。考えろ。
「困ってるの、見たら分かりますよね?
あと通行の迷惑なんですけど」
「初対面の人に向かって生意気すぎない?」
そう言って俺の肩を押してくる。危ないな。
「別に暴力振ってもいいっすけど、刑務所入ったら今よりもモテませんよ?」
「チッ」
めちゃ睨んできたけど、どこかへ行ってくれた。
「大丈夫?」
「……はい」
「ごめん、俺がちゃんと見てなかったから……」
「いえ、私の不注意です……」
ちょっと瞳が潤んでいた。
「これからはしっかり掴みます」
「え?」
一ノ瀬さんは俺の服の裾を掴みなおした。
そして柔らかい微笑みを見せる。
(少しでも笑ってくれて良かった……)
そう思って俺たちはまた歩き始めた。
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