クラスマッチ②優希の番
午後。
男子のソフトボールの試合が始まる。
俺たちは2戦して両方とも勝ってしまったので、決勝に進出できた。
普段は「行事なんかだりー」って口々に言ってるような男子が、女子チームの快進撃と応援で勢いに乗っている。
「ここまで来たら負けられないな」
「ああ!」
皆少年漫画の主人公みたいに燃え上がっている。
もちろん、俺も結花の前で格好いいところを見せたいと気合いが入る。
『決勝に出るチームは集合してください』
アナウンスが入り、俺たちはグラウンドに駆け出す。
「プレイボール!」
審判係が大声で宣言する。
なぜか1番バッターである俺は歓声を浴びながら打席に立つ。
……おそろし。皆そんなに期待しないで。
ラッキーなことにピッチャーの球はそこまで速くない。
練習通りにバットを思い切り振る。
カキーンと音が響く。真芯に当てられた感触がした。
バットを置いて無我夢中で走り出す。
ボールは外野の手前まで飛んでいった。
「やったー!」
観客席からクラスの女子たちの声が聞こえる。
女子は15人ぐらいはいるのに、結花の声ははっきり聞こえる。
というか、結花の声しか聞こえないような感じがする。
え? バカップルみたいだって?
俺は否定できないけど。
「こないだ一緒に練習した成果だね! かっこよかった!」
少しむず痒いような恥ずかしさと、それを大きく上回る胸の温かさを感じた。
俺の後の2人も続いてヒットを打つ。 4番は野球部だ。
皆の期待も一段と大きくなる。
カッーン、と気持ち良い音がする。
「なっ」
大きな放物線を描いて白球が飛んでいく。
全員がヒットを確信して、走り出す。
「「1点入ったぁぁ!!」」
初回得点は効果大だ。
相手チームもまずいと思ったのか、守備を大きく変えてきた。
そこからは両者1点も入らず、接戦となった。
そして最終回を迎える。
ここを守りきれば俺たちの勝ちだ。
「1点、最後まで守るぞ!」
「おおっ!」
おのおのの守備位置につく。
ピッチャーは、普段はやらないソフトボールの投げ方に疲れてきたのかなかなかストライクが入らなくなってきた。
「ピッチャー疲れてるぞ!」
「1、3塁のチャンスだ!」
ヤジが飛んでくる。
さっきなんとか1人三振させたけど、1打サヨナラのピンチだ。
ここで打順は1番。今までの打席はすべてヒットを打っている。かなり強キャラだ。
カキーン。
俺の方に打球は向かってくる。俺の前でバウンドしそうな軌道だ。
止めるしかない!
グローブを構える。
ボールはその中にきれいに収まった。そのまま2塁を踏んでアウトにする。
あとは1塁に投げるだけだ。
(間に合ってくれ……!)
ボールとランナーはほぼ同時。
「「どっちだ!?」」
「……アウト!」
「「おめでとー!」」
皆が駆け寄ってくる。結花も自分のことのように嬉しそうな表情だ。
それだけで、俺はすべてが報われたような感覚になる。
「やったね、ゆうくん!」
「まあ、たまたま取れたかな」
「たまたまじゃないよ!
……私はかっこよかったと思ったよ?」
真っ直ぐに俺の目を見て言ったあと、柔らかく微笑む。
「……ありがとう」
「うん! はい、お疲れ様!」
そして俺にペットボトルを手渡す。
「これって結花が飲んだんじゃ……?」
「……ゆうくん、恥ずかしがってるの?」
結花はニヤッと笑って、俺をからかうように言う。
「いや、そんなわけないよ!」
喉を鳴らしながら、勢いよくスポーツドリンクを飲む。
「……やっぱりゆうくんは『格好いい』じゃなくて『可愛い』だね」
「ものすごく煽られている気が……」
「あはは、でも、そんなとこっていうか……全部、好きだよ?」
皆に聞こえないように、俺の耳元でそっと囁く。
「えっ!?」
せっかくバレないようにしていたのに、びっくりして声を出してしまう。「えへへ」って笑いながら、結花は走って女子チームの方に行ってしまった。
「おい、どうした今日のヒーロー?胴上げするぞ?」
「ええっ!?」
「あーだこーだ言ってないで来いよー」
「いや、言ってないけど!?」
これが青春なんだろうなって、心から思った。
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