文化祭の係と橘さんの企み
「……もうすぐ結花戻ってくる」
「え?」
ボソッと橘さんが呟く。
何と言ったかは分かっているはずなのについつい聞き返してしまう。もちろんスルーされた。
扉が開く音がする。
え、なんで分かったんだ!? 超能力者かなんかなの?
「ごめんねー」
「いや、全然大丈夫だよ~。一条くんとお話できたし。前から話してみたいと思ってたんだよね」
あれは「お話」だったのだろうか。
女子ってこえー。
「じゃあ、戻ろうか」
「「そうだねー」」
返事が被ってしまって、橘さんにキッと睨まれる。
……ごめんて。
2日後。 またHRがあった。
今日は係ごとに集まっている。
俺たちの文化祭での仕事は案内係らしい。
仕事するのは1日目の午前2時間だけでいいらしい、よっしゃぁぁぁ!
結花と同じとこ担当らしい。橘さんは次の時間だそうで。
係の集まりが終わったあと、橘さんにつつかれる。
「時間変わってよ」
「……別にいいけど」
「そうそう、それでいいんだよ」
あっさりと交渉が上手く行って、橘さんはやんちゃそうな表情でニヤッとする。
こういう少し子供っぽいところが他の男子には刺さるんだろうなって一瞬思う。
「でも、その分午後俺は結花と一緒に回ってもいいんだな?」
俺もニヤッと笑って、橘さんに条件を提示する。
「はあ!?」
「それぐらいじゃないと釣り合わないだろ」
俺も一緒に仕事するの、楽しみにしてたんだぞ。まあ一緒に回ることの方が楽しいだろうから譲るんだけど。
「……ふん、分かったわ」
橘さんはすんなりと条件を飲んでくる。
その感じが恐ろしいんだが。何か企んでるんだろうな。
「じゃあ私も一緒に回るわ」
「は、はい……?」
予想の斜め上を来た。
「アンタだけ結花とイチャイチャするなんて、ずるいじゃない?」
当然のことみたいに言ってくる。俺たち、付き合ってるんですが……?
なんで俺に突っかかってくるのかバレバレなんだけど。
結花のこと好き過ぎでしょ。
……俺が結花のこと好きなのの次ぐらいに。
でもそんなことを指摘してしまったら、殺されるルートもふつーに見えるので余計なことは言わない。
「それなら、係変わるのはなしだ。1日目の午後一緒に回るのはギリ許そう」
「なんでよ!」
「橘さんの運が悪かったってことで。もともと同じとこだったのは俺だから」
「くっ……」
橘さんはかなり不満げな表情を見せる。
普通文化祭デートに付いて回られるの許さないでしょ……。
これでも満足してもらえませんか?
「2人とも、どうしたの?」
結花がタイミング良くやって来てくれて、空気を緩めてくれる。
橘さんがさっきまで放っていたトゲトゲしたオーラは消え去っている。
「文化祭楽しみだねーって話してたんだー」
さっきの会話、そんなにほんわかしてましたっけ? ほんとに恐ろしいよ。
「そうだねー、私も楽しみ!ゆうくんもだよね?」
「ああ、もちろん!」
前方から橘さんの冷たい視線が刺さる。
しかし、妨害されるのは1日目だけだ。
2日目は2人で高校生カップルらしく文化祭デートを楽しめるはず……!
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