秋の夜空と見送り
外に出るとちょっぴりひんやりする。
秋がやってきていることを感じながら、日がほぼ沈んでしまって、少しだけ明るい道を歩く。
「じゃあ、明日はどこか行こうね?」
「そうだね」
でも今日は今日で、良かったと思う。
結花もそう思ってくれてたらいいんだけど。
結花の家に着く頃には、辺りはだいぶ暗くなっていた。
結花が住んでいるタワマンは周りと比べて小高い丘の上にある。
というわけで夜景も綺麗に見える。
眠らない街とかいう表現がぴったりだと、田舎の方から出てきた俺は思う。
夏はホタル、秋は鈴虫ばかりだったので。
じゃあここらでお別れかな……。
マンションの入り口まで来て、結花に別れを告げようとする。
「ゆうくん、あれ見て!」
いきなり結花が秋の夜空を指差す。
ん……?
この大都市Tokyoではそんなに星見えないと思うけど……?
「……月、綺麗だね」
結花が指差した先には、秋らしい真ん丸の光輝く月がある。
あー、ウサギが餅つきをして……
って、え!?
待ってください。
わずか2秒ほどの間に俺の思考の全てを集中する。
どう返すのが最適解なんだろうか。
裏の意味は含まれているのか?
プランA→「そうだね」ってふつうに返す
想定される状況=どっちの意味でも通じるはず
プランB→「え?」って聞き返す
想定される状況=裏の意味なら恥ずかしがるはず
プランC→「それってどういう……?」って返す
想定される状況=ノーデリカシーって思われる可能性あり 可愛い反応見られる可能性もあり
難しい……。
「それってどういう……?」
【速報】
俺氏、なぜかプランCを選んでしまう。口が勝手に。
一番危険なやつ……!
「んー、ゆうくんは鈍感だなあ」
ぽかんとして結花に言うと、くすくす笑ってそう返される。
「!?」
結花は俺のすぐとなりまで寄ってきて、耳元で
「どっちの意味に取ってもらってもいいよ?」
っていたずらそうにささやく。
「なっ!?」
ゼロ距離+想定外のささやきで、俺はびっくりして飛び上がりかける。
絶対俺今顔真っ赤だろ!?
体温の急上昇を感じる。
「あはは、いつもの格好いいゆうくんと違って可愛いね、それじゃあまた明日ね?」
引き留める間もなく、逃げられてしまった。
今俺のこと、格好いいとも言いませんでしたか?
爆弾発言連発しといてさっさと帰っちゃうか……。
まあ、あの聞き返しして正解だったか、結果的には。
俺の可愛い可愛い彼女さんは、今までよりも攻撃力が高まったみたいだ。
無自覚な押しも可愛いかったけど、お互いの「好き」を自覚してからは意図的な押しも増えてきた。
そんな感じの、クラスの他のやつらには見せない表情を俺だけに見せてくれていることが何よりも嬉しかった。
(もしかしたら、俺って独占欲強めなのかも知れない……)
まあそんなことは気にせずに!
俺の高まった体温を秋の夜風が下げてくれる中、帰路に着いた。
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