師匠(?)への報告
「じゃあ一緒に帰ろう、ゆうくん?」
「そうだね」
一緒に帰ろうとするんだけど……結花はなんか言いたげな表情で立ち止まる。
「手、繋いで欲しいな……?
私たち、その……付き合ってるから」
「ええっ!?」
結花は初々しく手を繋ごうと提案してくる。
予想外の言葉が飛んできてびっくりした。
……あぶね、何もないのに転ぶとこだったわ。
夕日に負けないぐらい結花の顔が赤くなってる。
「いいよ?」
「やった……!」
そう言って笑う結花は、やっぱり天使みたいだった。
俺たちは、お互いの手の温もりを感じながら、夕方の道をゆっくり歩いた。
今日は本当に色々あったなあ。
家のドアを開けて、布団に思い切り飛び込んだ。まだ俺の心臓は高鳴っているままだ。
いきなり電話が鳴る。
ついつい反射的にスマホに飛び付く。
……なんだ、翔琉か。 別に残念がってないからね?
「もしもしー、翔琉」
「おー、優希!どうだった?」
「俺が3点勝ってたよ」
「ということは……!」
「ああ、やっと付き合い始めたってわけだ」
「おー、おめでと!!
惚気話はいつでも聞くぞ?」
「……おお」
「なんだよ、あんまり嬉しくないのか?」
微妙な反応してたらなんか勘違いされてた。正直ほわほわしてるような感じしてるんだよ。
「なわけないだろ!? 名前呼びも解禁されて、俺のことゆうくんって言ってくれて、俺にだけタメ口で話してくれる天使様さまが付き合ってくれるのに!」
俺はつい興奮気味に電話の向こうの翔琉に言う。
「なんかノリノリだね。誰に影響受けたんだ?
クラスの恋バナ好きな女子か?」
「お前だよ」
「おー、じゃあ今度アニメ見るか」
「いいけども」
「じゃあいつでも来ていいからな?
あ、一ノ瀬さん優先で大丈夫だから」
「おっけ」
「じゃあなー」
「おお」
俺は師匠(?)への報告を終えた。瞼を閉じて、告白したときの結花の顔を思い出してみた。
「ほんと、俺にだけ天使とか……嬉しすぎ」
この時の俺はたぶんニヤついてしまっていたと思う。
優希くん、いや、ゆうくんと付き合い始めたんだ……!
そう思うと、ゆうくんは今一緒にいないのに胸の高鳴りが収まらない。
「どうしよ……」
電話かけたくなってきちゃった。
明日も会えるって分かってるのに、なぜか今すぐ声が聞きたい。
「よし、電話しよう」
私は、電話をかけようと思い立ってからすぐ行動に移した。
……また電話か。
翔琉のおすすめのラブコメアニメの紹介かな?
別に時間はあるから大丈夫なんだけど。
もう一度スマホを手に取る。
スマホの画面に一ノ瀬結花と表示されている。
あれ……?
なにかの間違いかもしれないと思って目をこする。
あ、現実だ。
あわててスマホの通話ボタンをタップする。
胸の高鳴りが抑えきれないのは、どうやら俺だけじゃなかったらしい。この感覚を共有していることも、嬉しい。
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