告白
「ごめん、お待たせ」
俺は屋上のドアを開けると、息を切らしながら言う。
景色を眺めていた一ノ瀬さんは振り向く。
「いえ、大丈夫です。
なにか先生に頼まれてましたよね?」
「あ……うん」
「なら仕方ないので。じゃあ、結果見せ合いましょうか?」
「そうだね」
「私はこんな感じです」
そう言って、一ノ瀬さんは成績が書かれた紙を見せる。
……国語が92、数学88、英語90。
ってことは……俺が3点上?
「優希くんはどうでしたか?」
「俺は、国語92、数学86、英語95だった」
「……じゃあ、私の負けですね。
おめでとうございます、優希くん」
少し間が開く。
一ノ瀬さんはちょっとだけ悔しそうに、それでも微笑んで俺を祝福してくれる。
「でも、次のテストでは、優希くんに負けませんから!」
「うん、俺も一発屋にならないように頑張るよ」
「ところで、勝ったら何か言いたいことがあるって言ってましたよね?」
「うん」
覚えててくれたことがちょっと嬉しい。いや、ちょっとどころではないか。
大きく深呼吸をする。
まだ明るい太陽に照らされて、屋上は神秘的な雰囲気に見える。
(うわ、なんか緊張してきた……!)
普通に話すときみたいに言えばいいのに。
「じゃあ、言うね?」
「はい!」
「一ノ瀬さん、いや、結花さん。
俺と付き合ってくれませんか?」
「……!」
あれ……? 一ノ瀬さんは驚いたような表情で固まってしまった。……もしかして詰みました?
「もちろんです!」
「……え?」
「こちらこそ、よろしくお願いします!
いや、よろしくね?」
一ノ瀬さんは陽の光を浴びて輝く黒髪を耳にかけながら、俺の顔を覗きこんで言う。
「ええっ!?」
「なに驚いてるの、優希くん?」
「いや……なんか固まっちゃったから」
俺がそう言うと、一ノ瀬さんはあどけない笑顔で笑う。
「私も嬉しくて、つい……あ、この口調変ですか?」
「いや、変じゃないよ!
それもかわいいから、結花さん!」
「あ、結花さんじゃなくて結花でいいよ?
私もゆうくんって言うから」
「あ、うん!」
ほんの少しだけ恥ずかしいような気もするけど、そんなのはまったく気にならない。
「夕日、きれいだね」
「ほんとだね」
ちょうどお昼の太陽と比べて大きく、明るくなって近付いて見える今の太陽みたいに、俺たちの距離も縮まったような気がした。
夏休みの間、私もしっかり勉強してきた。
今まで通り学年1位を取るために。
優希くんが、もし勝ったら伝えたいことがあるって言ってた。
それが何か気になるけれど、それで手を抜くのは私自身納得できないし、何より優希くんも納得しないだろう。
「……じゃあ、私の負けですね」
高校のテストで初めて負けた。
悔しいけれど、優希くんがなんて言うのかが気になって仕方ない。
「ところで、勝ったら何か言いたいことがあるって言ってましたよね?」
「結花さん、俺と付き合ってくれませんか?」
私はその言葉を聞いて、ハッと息をのむ。
そう言われた瞬間、優希くんといるときの楽しさだったり、胸の高鳴りが「恋」なんだって初めて分かった。
最初は家事代行のバイトと、そのお客さんって薄い関係だったけど、あのとき優希くんに見つけてもらえて本当に良かった。
「「これからもよろしくね?」」
「あ、ハモっちゃったね」
「付き合ってる感じがするし、いいんじゃない?」
「あはは、そうだね」
俺たちは顔を見合わせて、笑いながら屋上を後にした。
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