お引っ越し
新居を決めてからわりとすぐ、引っ越しの日がやってきた。
荷造りを終えて、俺は3年間お世話になったアパートを眺める。
「今日でここの家とはお別れか」
「……そうだね」
ここで過ごした日々を思い出して、しみじみとした気持ちになる。
最初に結花に家来てもらった日のこと、家事代行頼んでなくても来てくれるようになって、おうちデートをしたり、皆でパーティーした日のこと。挙げればきりがない。
それらの思い出が一気に脳内を駆け巡る。
「……でも、新しい家でまた思い出作ればいいかな」
「うん。ゆうくんの言う通りだね」
隣に立っている結花は俺の方を見上げると、朗らかに笑って頷く。暖かい春の風が、結花の黒髪をふわりと揺らしていた。
「優希が3年間も1人暮らし出来るとは……!」
「結花に色々助けてもらったからね」
わざわざ実家から来てくれた親に少しだけある家具を運んでもらった。冷蔵庫と電子レンジと、あとベッドぐらい。
思ったよりかはあったな。
「ここが俺たちの新居……?」
「改めて見ると、本当に綺麗だよね」
建ってからそこまで経ってないらしい。家賃13万が安く思えてきた。しかも、ついに結花と一緒に住めるわけだし。
同棲生活のためにバイト頑張るか。
「ふぅ、こんなもんかな」
結花と相談して新しく買ったソファとか洗濯機、俺んちから運んできた冷蔵庫とかをある程度並べ終えた。
親は、「ふたりの時間を邪魔するわけには行かないから」って言ってすぐ帰った。
そう言われると、気を遣わせてしまったことをちょっと申し訳なく思う。今度実家帰るから許して。
「さっそく、お昼ごはん作ってみる?」
「おお、いいね。あ、まずは買い物に行かないと」
「そうだね、どんな品揃えなのか気になる」
俺は結花に連れ添って近くのスーパーに向かう。スマホの案内によると徒歩8分ぐらいらしい。
「なかなかいいね」
「うん、前行ってたスーパーよりほんの少しだけど安い」
俺たちは買い物カートをゆっくり押しながら、野菜コーナーを見て回る。パスタでも食べようか、ってことになって、トマトやパスタをカゴに入れた。
俺は買い物袋を肩から提げて、結花のスピードに合わせて歩く。
家まですぐそこってところで、結花は小走りをして俺の前に出る。ん、どうしたんだろ。
「えへへ。おかえり、ゆうくん」
「うん、ただいま」
結花は玄関に立つと、満面の笑顔で俺を待ち受ける。なんだ、俺におかえりって言いたかっただけか……可愛らしすぎて心臓痛い。
俺たちは今までの家で料理するときと同じように、隣り合って調理する。
「記念すべきこの家での初料理、完成だね」
「うん、美味しそう」
俺たちは真新しい椅子に腰を下ろして、両手を合わせる。
「ん、美味しい」
「これからもふたりで作りたいなあ、早く帰ってこないと」
バイトは週末頑張ろっと。
美味しすぎてパスタを啜るのが止まらない。いつの間にか皿の上は綺麗になっている。
「これからもよろしくお願いします、結花」
「どうしたの、急に改まって」
「いやあ……今日から一緒に暮らすわけだから」
「そうだね、前よりもずっと長く一緒にいられるから嬉しい」
ついに俺たちの生活は半同棲から同棲にパワーアップした。
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