合格発表と……
運命の日、とも言うべきだろうか。卒業式を終えて数日後。
俺たちは合格発表を確認しに向かう。
合格発表の掲示板の前は、俺たちと同じような心境の人たちでごった返していた。
もう少し近づきたいな、と思いつつ目を凝らして俺と結花の番号を探す。
「ゆうくん、あったよ!」
「うん。俺も見つけた」
「やった!」
当たり前だけど、結花はこれ以上ないくらい興奮して飛び跳ねる。そして、俺に飛びついてくる。
同じ高校から受けてたやつがびっくりしてこちらを恐る恐る見ている。結花は気付いてないけど。
たしかに、クラス同じになったことがない人からしたら結花は完全無欠の天才美少女のイメージしかないだろう。
彼の視線がゆっくりと俺に移動する。
……いま、空耳じゃなければ「あいつ、同じ学校のやつか……見たことあるわ。非リアの敵」って聞こえた。
やばい、ボス戦始まっちまう。逃げよ。
「ほんとにありがとう、ゆうくん」
結花は俺の様子がおかしいのに気付くことなく、抱きついたまま離れようとしない。嬉しいよ、嬉しいんだけど今は……。
邪念はないんです(嘘)命は助けてください(ガチ)
心の中でそう念じていると、結花が突然顔を真っ赤にして俺から一歩分離れる。
「……来てくれてたんだ、お母さん」
「うん。結花、それに一条くん。おめでとう」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
結花のお母さんは、慈愛に満ちた表情で結花を優しく抱擁する。
「何もしてあげられなかった、というよりしてもらうことのほうが多かったね、ごめん」
「ううん、そんなことないよ」
ふたりの様子を眺めていると、ようやく俺も受かったんだと実感がふつふつと湧いてきた。
あ、俺も合格だった、って送ったのの返信、母さんと父さんから来てたわ。
「もし不合格だったらどんなリアクションしたらいいか分からなくて行かなかったけど、優希のことだから受かると思ってた」
そのメッセージを確認して、俺は若干苦笑いしてしまった。
「ありがとう、お母さん。これからも……私のこと、応援してくれると嬉しい」
「もちろん」
紆余曲折あったと思うけれど、このふたりが分かり合えたのを3年間で見てこれた。ふたりが喜んでいるのを見ると、俺も嬉しい。
仕事に向かう母に、手を振る結花の姿が印象的だった。
「ゆうくん、早速だけど……大学に通うための家探しに行こう?」
「え、もう?」
「うん、早く行かないと取られちゃうから」
これから大学入学とは思えないほど詳しい結花に手を引かれて、内覧へと向かう。
候補の物件は、1LDKで大学まで10分ほどという俺が考えている条件に合致していたこの上なく素晴らしい物件だった。1人だとここには住まないが。
台所も作業しやすそうじゃん。全居室フローリングだし、掃除機もかけやすそう。
「お風呂もふたりで入れそうだね」
「えっ……たしかに」
お風呂場を確認しにいった結花が、戻ってきて俺に耳打ちする。いやたしかに不動産屋の人に聞かれたくはないけどね? 俺のHPに配慮して?
「ここにしよっか、ゆうくん」
「凄くいいけど……家賃ってどのぐらいなの?」
「どうしますか?」と尋ねられた俺たちは、ほぼ決定に近いけど作戦会議を行う。
なんか俺テレビショッピングに出てる人みたいなこと言ってる。
「13万って。でも、ふたりで払ったら一人暮らしとあんまり変わらないんじゃないかな」
「たしかに。じゃあここにしよう」
「うん!」
諸々の手続きを済ませて、契約は完了した。引っ越しの準備しないとだな。
……大学入学と共に始まる同棲生活が楽しみすぎる。
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