卒業パーティー
「ゆうくん、遅いよ?」
結花の声が聞こえて、俺たちふたりは足を止める。
「ごめん。……とりあえず、姫宮捕まえてくれると助かる」
「う、うん。分かった」
「そ、それはずるいです」
俺と結花に挟み打ちにされて、姫宮はなすすべもなく捕まる。
「今からの卒業パーティー、呼ぼうかなーって思ったけど……やっぱやめとこうかな」
「ごめんなさい。反省してます」
「絶対反省してないやつ」
「まあ、ゆうくん。みんなも来るから、帰ろう?」
長引きそうな気がしたのか、結花は姫宮を捕まえていた手を緩めて言う。
「え、一ノ瀬先輩……優しい」
別に積極的に呼ぼうとしてるわけではないと思うぞ?って言葉が出かけたけれど、急がないといけないので結花に走って追いついた。
「先輩方、ご卒業おめでとうございます!」
結局来るんですよね、分かってました。
この場にいるただひとりの後輩、っていうわけでクラッカーをぶっ放す。ついでにくす玉も引っ張っている。
「ありがとう、姫宮」
「……せんぱい。こちらこそ、2年間ありがとうございました」
「じゃあ、姫宮の仕事はここで終わりだから帰ってもらってもいいぞ?」
「流石にひどいです!」
どの口が言ってるんだか。
「あ、皆さんでピザとかポテトとか分けてもらっていいですよ」
「「おおー」」
しごでき後輩であるのは変わりないようだ。皆でテーブルを囲んで、炭酸ドリンクを飲みながら色々食べる。
「結花たちは卒業旅行とか行くの?」
「うん、行くよ」
天野さんが隣り合って座っている俺たちに聞いてくる。姫宮がいるこの場で言っちゃいますか。
「え、せんぱいどこに行くんですか? 教えてください!」
「姫宮には教えねえ」
「えー、教えてくださいよー」
俺たちのやりとりを聞いている皆は、ニヤニヤ笑っている。皆、じゃなくて天野×翔琉ペアだけか。約2名はあんまり笑ってない。
この後輩、いつも通りすぎないか。……さっきの演技上手すぎて恐ろしい。将来女優とかになれそうなレベル。
「じゃあね〜。ふたりとも、受験お疲れ様」
「春休み遊ぼうね、結花」
「うん!」
「俺らも遊ぼうな、優希」
「おっけー」
目一杯楽しんだあと、翔琉たち3人は先に帰っていった。
姫宮は、「片付け手伝いますよ!」って言ってまだ俺の家に残っている。客観的に見たら後輩力No.1だと思う。織田信長から見た豊臣秀吉レベル。
テーブルを綺麗に拭き上げたり、床を掃除し終えて、姫宮は帰る支度を済ませて玄関に立つ。
「結花。暗いし、姫宮送っていかない?」
「ゆうくんの頼みならいいよ」
そんなこと言って、たぶん結花も送っていこうと思ってたんだろうけど。上着羽織ってるし。
「ありがとうございます、せんぱい」
「まあ、仕方なくな」
「後輩ちゃんは最近お菓子作ったりしてるの?」
「はい! 一ノ瀬先輩に教えてもらってから、ほんとに作るのが楽しくて」
「ふふっ、そっか。それなら良かった」
結花は優しく微笑んで姫宮の話を聞いている。道中バチバチするかな、と思ったけど、その心配はいらなかったみたいだ。
「今度2人に食べてもらいたいです!」
「ゆうくんに食べてもらうなら、自信作持ってきてね」
「もちろんです!」
姫宮は自信ありげにニヤッと笑う。後輩の面倒見も良い、という結花の新たな一面を見ることができて、俺は姫宮に感謝するべきだな、と思った。
「わざわざありがとうございました」
「うん。姫宮とは、またなんだかんだ会うだろうから、その時な」
「ゆうくんにちょっかいは出さないでね?」
結花は微笑みながら、俺の腕に自分の腕を絡ませて、見せつけるように俺を引き寄せる。表情とやってることが合っていないような。
「……待ってください、せんぱい」
「……どうした」
この感じ、数時間前も見たような。今度は騙されねえぞ。
「卒業式のあとのお願いは、私の本心ですから」
「……まあ、信じとくよ」
「演技だったんじゃないのか?」って言いかけたが、姫宮の表情がいつになく真剣だったので、その言葉は飲み込んだ。
「せんぱいとの思い出は、楽しいものにしたくて」
姫宮の声は震えている。これでまた演技だったら一生後輩不信になりそう。
「ごめんなさい、一ノ瀬先輩。先輩がいるのに諦めきれなくて」
「……うん」
「……先輩たちはずっと仲良く、イチャイチャして過ごしてください」
「……急にどうした」
いきなり姫宮は顔を上げて、俺たちに2人に言う。
「そうじゃないと、ほんとに私が奪いに行きますから。……初恋は、諦めきれないんです」
普段だったら、見せつけられるのが好きなのか?ってツッコミを入れただろうけど、そんな気分ではない。
「先輩たちの行く末、見守ってますから。私、一条せんぱいはもちろんですけど、一ノ瀬先輩のことも好きですから、ふたりの幸せは願ってます」
「ありがとう、後輩ちゃん。私がいるのに、後輩ちゃんがゆうくんを巡ってバトル仕掛けてきたりしたけど、そんな日々も楽しかった」
「あ、結婚式は……呼んでほしいですけど、呼んでほしくないです」
「どっちだよ」
思い出は楽しいものに、か。
姫宮が泣き笑いしながら言った言葉に、俺は笑いながらそう返した。
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