卒業
卒業式は、思ってたよりもずっと早く終わったような気がする。それに、結花が隣にいるので、少し強がって名残惜しそうな雰囲気も出さないようにしてた。
高校生の別れとか、そんなに大きいものではないってのもあるけど。翔琉たちとはいつでも連絡しあえるし。
結花と離れるわけでもないし。
……ただ、結花の制服姿は見れなくなるのか。残念。
や、やっぱ今のナシで。
最後のホームルームを終えて教室の外に出ると、別れを惜しむ声があちこちから聞こえてくる。
「せんぱい、卒業おめでとうございます!」
……姫宮か。まあやって来るとは思ったけど。
「せんぱいに伝えたいことがあるので、ちょっと来てください」
ちょうど結花が橘さんたちと話している隙を狙われた。
「昔の卒業記念の木の下に埋めて肥料にするか!」とかいう恨みのこもった声を卒業式当日に聞くとは思わなかったよ、周りの男子くん。
無事に卒業の日を迎えられて良かった……。無傷なのが不思議なくらいだ。
俺は姫宮に引っ張られて講堂の裏に連れていかれる。
「せんぱい、お願いがあります」
「最後だし、ちゃんと聞くよ。……叶えられるかは別だけど」
「せんぱいらしいですね、でも『最後』にはしません」
そう言うと、姫宮は深呼吸をする。
「卒業してからも、いままで通り私とも過ごしてくれますか? ……いや、いままで通りじゃ足りないです」
「……それぐらいのお願いなら、叶えるよ。友達として、だろ」
「あ、ゆうくん。こんなとこにいた」
結花は俺の手を握る。……バトル勃発の予感。まあ、この2人がバトっててもひたすら結花が可愛いだけなので問題はなし。
けど、姫宮は俺たちに、笑顔を見せる。結花も予想外だったらしく、姫宮になにも声をかけない。
「……でも、諦めたわけじゃないですから。もし、一条せんぱいと一ノ瀬先輩の関係に綻びが生まれたら、すぐに私が割り込んであげますから!」
「そんなことはないと思うけど、気をつけておくよ」
「後輩ちゃんに隙は見せないよ? まあ……卒業式だし、言いたいことがあるなら今のうちに。……ゆうくんが戻ってくるのが遅かったらまた来るから」
そう言って結花はクールに去っていく。俺も結花も、ちょっとこの後輩に甘すぎるかもしれない。
「自分で言っておいてですけど……せんぱいの言う通りになると思います」
さっきまでの態度は強がりだったみたいだ。
「……あとひとつだけお願いがあります。
これで、満足しますから」
姫宮はぼろぼろと涙をこぼしながら言う。言葉も途切れ途切れで、なんとか絞り出している、って感じだ。
……うっ。いつもの様子からこんな姿は想像できないだけに、どう対応して良いか分からなくなる。
「……お願いは?」
「……しばらくの間、このままでいさせてください」
姫宮は俺の胸に顔をうずめる。
それだけ、姫宮も俺のことを本気で好きでいてくれたのか、と思う。
「ごめんなさい、らしくなかったですよね」
「それはそうだけど……別に気にしなくていいだろ」
しばらくして、姫宮は俺に抱きつくのをやめてから微笑んで言う。無理して笑っているようには見えないので、安心した。
「ですよね! ……私、やっぱりさっきのじゃ満足できません」
「は?」
姫宮はいつも俺に絡んでくる時のように、ニヤニヤして言う。
こいつ……!
「さっきまでのは演技だったのか……?」
「それは違います! せ、せんぱい……そんなに怒らなくても」
「しみじみした時間返せ」
「……に、逃げろ〜!」
「ちょっと待てやぁぁ!!」
こいつとはこんな関係が一番合っているのだろう、と姫宮を追いかけながら思った。
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