大晦日勉強マラソンとハプニング
大晦日は前々から、年越しまでずっと勉強をしよう、と結花と決めていた。
大晦日勉強マラソン、開催決定。
……勉強マラソンとか、予備校とかでしか聞かなさそうなワードだな。
実家に戻ってきてから数日経ったけれど、ずっと俺の親は料理をしたり、部屋の掃除をしてくれたりと俺たちのサポートをしてくれる。本当にありがたい。
けど……俺が結花に出会う前、なぜ料理とか掃除とか家事全般が出来なかったのか分かった気がする。
俺が甘えてたのが悪いんだけど。
「……今何時だろ」
あくびが出そうになるのをなんとかこらえながら、俺は呟く。もう随分勉強した気がする。ペンを握る右手が痛い。
「もう10時だよ」
「え、俺たち14時間ぐらい勉強してるってことか」
「そうなるね」
正直、隣で結花が勉強してくれてなかったらキャリーオーバーで壊れてしまっただろう、と思う。
勉強のべの字が聞こえるだけで拒否反応出てたな。
「ちょっと、休憩する?」
そう言いながら、結花は自らの太ももの上に俺を誘う。
「結花がいいなら……」
と言いつつ、俺はもう結花の膝枕を堪能している。体が勝手に……。
「お疲れ様、ゆうくん」
俺はゆっくりとまぶたが閉じられていくのに抗うことなく、そのまま眠りについた。
「……勉強しないと」
夢の中に赤本が出てきて、俺の意識はゆっくりと現実世界へと引き戻された。夢に赤本が出てくるとか、どんだけ追い込まれてるんだよ。
俺はそのまま起き上がろうとする。
ぽふっ。……ぽふっ?
頭頂部にやわらかなものが当たる。なにこれ? 枕?
俺は寝ぼけたまま、そのやわらかなものをどけてきちんと座り直そうとする。
「……私でも、恥ずかしいんだよ?」
「え、何の話……!?」
俺の意識は結花の声によって、完全に現実世界へと降り立った。
「す、すみません……!」
さっきまでの両手の感覚がなにによるものなのか分かった瞬間、俺は反射的に土下座をしていた。
「事故なんです……許してください」
「……どうしようかな」
まじで事故なんです……。ただ、両手の感覚は忘れることができない。って、何考えてんだ。
「……せきにん、はもう取ってもらう約束だし」
結花はぼそっと呟く。俺のやらかしによっての発言なんだけど、愛おしすぎてつい抱きしめそうになった。
そんな心の内を悟られないように、俺はどういう処分を下されるのか気になる、という表情を繕う。
「……卒業旅行、行ってくれるならいいよ」
「もともと、誘おうと思ってたよ」
俺がそう返すと、結花は頬をぷくーっと膨らませる。え、返し方にミスはなかったと思うけど。
「……その言い方は反則。嬉しいけど」
「はい」
たしかに、俺のやらかしに対しての処分だからなあ。卒業旅行はご褒美すぎる。
「ゆうくんに何してもらうかは、おいおい決めておきます。花奈に決めてもらおうかなー?」
「それだけはやめてください」
俺は早口でそう言いながら、もう一度頭を床にくっつける。あの人が事故の内容を聞いたら……たぶん俺の胃に穴が開く(物理)
「そこまで言うなら……?」
橘さんの本性をいまだ知らない結花は、不思議そうに言う。
「じゃあ、卒業旅行で行くとこ決めたら、また勉強再開しよ?」
「も、もうちょっとだけ休憩したい……」
「仕方ないなあ」
つかの間の甘々な休憩だったけど、充電するのには十分な、濃い時間だった。
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