勉強合宿
……というわけで、夏休みが始まってから初めての週末に、俺たちは伊豆にやってきた。
「さっそく勉強やっていこー!」
「おー……」
結花は俺のやる気を上げるためか、元気よく声をかけてくれる。
電車移動が楽しすぎて、この旅行の目的を忘れかけていた。
俺たちは数学の問題集とノートを開いて、ペンを走らせる。
俺は、一問解くごとに結花の集中している表情を眺めることにした。
結花は長い髪を耳にかけて、ペンを休まず動かしている。
……やっぱり、かっこいいな。あとオフショルダー姿が可愛い。後ろに回って抱きしめたくなる。
俺ももうちょっと集中しますか……。邪念は振り払わないと。
「そろそろ休憩しよっか、ゆうくん?」
結花はペンを置いて、俺に微笑みかける。
「やったー!」
俺は嬉しすぎて飛び上がるとこだった。そんな俺の様子を結花は優しく見つめる。
「昼ご飯はなにが食べたい?」
「うーん、冷やし中華かな。俺も手伝うよ」
「美味しそうだね。じゃあ、あと1時間勉強したら作ろっか」
正直今すぐ作り始めたかった。……まあ、午前中にいろいろ終わらせてしまったほうが楽だから、もう少し頑張ります。
……そう決意したんだけど。
30分経ったところで、ペンを動かす手が止まる。この問題の解き方忘れたわ……。
そうなってしまうと、集中力はどんどん削られていく。
しかし、結花の集中している表情をもう一度見ると、やらなきゃだな……とふつふつとやる気が出てくるのを感じる。あと半分……!
やっと1時間が経った。
結花と一緒にぱぱっとトマトやきゅうりといった野菜を刻んで、冷やし中華を完成させた。調理時間自体はかなり短かった。
家でも手軽に作れそうだ。今度結花に振る舞うのもいいかも。
俺たちは、向かい合って座って、冷やし中華をすする。
「結花はよく1時間も集中力持つねー」
「うーん、決めたところまで早く終わらせたいからかなあ」
なんでもないことのように結花は言うけれど、相当凄いことだと思う。
俺はご褒美とかがないと頑張れないタイプだな、とつくづく思う。
まあ、結花と一緒にご飯食べれてるのはご褒美だ。午前中勉強した分報われた。
……そう思ったら、午後頑張れるのでは?とポジティブな気持ちになってきた。
よし、夜ご飯まで頑張ろう!
俺は1時間頑張ってペンを動かし続けた。
……ふう。俺はペンを置いて、肩の力を抜き天井を仰ぐ。
「お疲れ様、ゆうくん」
耳元で、結花が優しく俺に声をかける。
それから、腕を俺の背中から胸の方に回して、ぎゅっと抱きしめてくれる。
オフショルダーの紐が背中に当たってるのを感じて、どきっとした。
「……びっくりした?」
「……した」
結花は俺の反応を確認すると、満足してにこっと微笑む。すんすんと鼻を鳴らして、俺を離さないように抱きしめている。
「ほんとは、早く今日の分終わらせて、こうしたかったんだ」
結花はまだ俺の肩あたりに顔をうずめようとしている。そんなにいい匂いするのかな。
今後も同じシャンプーとボディソープを使おう、とは思った。
「俺もこれがご褒美なら、ずっと集中持つかも」
「じゃあ、30分ごとにしてもいい?」
「もちろん」
結花はするすると俺を抱いている腕をほどく。もうちょっと長くても良かったのにな。
まあ、そのあとの勉強の効率が爆上がりしたのは言うまでもない。
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