体育祭が終わって
準備期間から濃密(?)だった高校最後の体育祭が終わった。
あと残された学校行事イベントは、文化祭と卒業式だけか。
そんなことを考えながら、昼休みに飲み物を買い足すべく売店に向かっていると、担任に呼び止められる。
「今日、放課後時間あるか?」
「まあ、あります」
「じゃ、残っててもらってもいいか?」
……結花と一緒に帰れない、ってわけか。
放課後。職員室とかいう魔界に連れてこられた。職員室って、悪いことしてなくてもなんだか息しづらいよな。
「まあ、リラックスしてくれ」と担任が笑いながら言う。早く家に帰ってリラックスしてえよ……。
「隣の一ノ瀬と喋ってるときはいつも締まりのない顔してるわりに、成績は順調そうだな」
「締まりのない……?」
最初の言葉がそれとか、普通にショックなんだが。ナチュラルにディスらないで?
「難関大にチャレンジするんだろ?」
「その予定です」
最初はエスカレーターで大学行ければいいや、と思って付属校選んだんだけどな。
結花と同じ大学行けそうだから、勉強してて良かった。
そのあとも色々聞かれた。「一条は頑張ってるから、そんなに心配してないぞ」って言ってくれるのはありがたいけど……なら早く帰らせて?
可能な限り、早く帰りたそうなオーラは出した。
「ふぅ……」
やっと職員室を脱出できた。
空はだいぶ暗くなりつつある。
「久しぶりにぼっちだな」
遅くなりそうだったから、結花には先に帰っててもらうように伝えていた。
俺は周りの景色とかを見ながら一人で歩く。
いつもは気に留めないような、通学路沿いの店とかを知れた。今度ふたりで行ってみるのもいいな。
一人もいいことはあるけど……結花がいるから、進んで一人で帰ろうとは思わないな。
鍵を玄関のドアに差し込んで、回して開けようとする。
……あれ。今日は二重ロックにしてなかったっけか。
少し違和感を感じながらドアを開けると、なぜかエプロン姿の結花が出迎えてくれた。
「おかえり、ゆうくん」
結花は料理の途中だったのか、お玉を持っている。って、え?
俺が状況を掴めないでいると、結花はいつか渡したキーケースを持ってくる。
「前、ゆうくんから合鍵もらってたから、先に帰って、夜ご飯作ってて驚かせちゃおうかな、って」
結花はいたずらそうに笑う。
こういう、案外いたずら好きなところも可愛いな、と思う。
「ちょうど夜ご飯できたとこだから、一緒に食べよう?」
「さっきからいい匂いするなー、って思ってたんだ」
今日のメニューは、野菜の肉巻きとコーンスープのようだ。
「美味しい!」
「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しい」
結花は野菜の肉巻きを口に運んだ俺の表情を見てから、夜ご飯を一緒に食べ始めた。
結婚したときの光景みたいだな、と思う。俺が早く帰ってくるときもあると思うから、そんなときは結花が帰ってくる前に夜ご飯作れたらいいなあ。
「ありがとう、久しぶりに一人で帰って、まあ……正直寂しかったんだよね」
俺は笑いながら結花に胸の内を告白する。
「だから、帰って結花がいてくれて、驚いたし、嬉しかった」
「じゃあ、私の作戦は成功ってことだね」
俺の家の食卓は、今日も幸せに包まれている。
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