体育祭当日➁
『それでは、午前中最後の種目の借り物競争の選手の入場です』
「まだ一ノ瀬さん出てこないのか?」
翔琉が俺のほうを覗き込んで聞いてくる。いま頑張って探してます。
まだ俺たちの競技が終わってから2種目しかやってないから、いなくても当然なんだけど。
さっきまでの種目も入場の列を、目を皿にして探した。
「あ、あそこにいた」
俺はハチマキを巻いて、ポニーテールにした結花を発見して、翔琉にどのあたりにいるか教える。
「あ、ほんとだ。借り物競争って、だいぶラブコメイベントだよなー?」
「そうなのか? パン食い競走とあんまり区別が付かないんだけど」
「それは重症だな」
区別が付かないってのは流石に冗談だけど。でも実際にやってる様子は見たことがないな。
……普段から一番重症なやつに言われたくはない。
「ルールってどんな感じなの?」
よくわからないので、翔琉に質問してみる。
「お題があって、それに合う人を連れていくんだよ。それで、その速さを競う」
「そうなんだ」
「待ってたらたぶん来てくれるよ」
翔琉の言う通りに、応援しつつ結花の姿を目で追って待つ。
結花はきょろきょろ応援席のあたりを探したあと、俺たちに気付いてこちらへ向かってきた。
「ゆうくん、見つけた」
結花は額を汗で光らせて、爽やかに微笑む。そして、俺に白くきれいな手を伸ばす。
「ついてきて?」
「うん!」
俺は結花の柔らかな手を取る。
俺が結花に手を引かれて、走り出すのを翔琉は微笑んで眺めていた。
俺はゴールと思しき場所まで結花に連れられてやってきた。ふわふわと、風に乗って柔らかな匂いが鼻に届く。
「なんていうお題だったの?」
「んー、それは……内緒かな」
そう言って、結花は照れ隠しするように笑う。めっちゃ気になる……!
俺たちはゴールにいる運営の人にお題と有っているかをチェックしてもらう。運営の人って天野さんじゃないか。
「お題ってなんなの?」
「んふふー、結花本人に教えてもらって?」
天野さんはにまーっと笑いながら、何の解決にもならない方法を教えてくる。
翔琉とDNA一致してるんじゃないか?
『1位は……赤ブロック3年一ノ瀬、一条ペアでした!』
「やったね」
競技が終わって俺と結花は一緒に応援席に戻る。
その途中、結花の体操服のポケットから、なにやらメモのような紙がはみ出ているのに気付いた。
なにやら文字が書いてある。
(なんて書いてあるんだろ……?)
俺は結花に気付かれないように、距離をキープしたままメモの字を読もうと試みる。紙に折り目がついていて、なんだか読みづらい。
「大切……?」
まだその二文字しか解読できてない。
「ん、どうしたの?」
結花が優しく微笑みながら、俺の方を振り向く。
その瞬間、ひらひらとメモ紙が落ちてきた。
結花が前を向いてから、俺はさっとそれを拾うと、何が書いてあるか確認する。
「大切な人orもの」
……これがお題だったのか。
何度も、大切な人だって伝えてもらってるような気がするけど、いつ伝えられても嬉しい。
「……どうしたの? なんだか嬉しそう。 1位になれたの、嬉しかった?」
「うん、もちろん。……他の理由が主だけど」
最後の一言は、独り言のように、自分だけ聞こえるぐらいで言った。
いつも読んでくださりありがとうございます!
しばらく更新できていませんでした。すみません。
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