倉庫からの脱出
俺たちは一旦イチャイチャを止めて、マットの上に座り直す。
「もっと、暑くなっちゃったね」
結花はまだ息が少し荒いみたいだ。
「たしかに、結構汗かいたかも」
そう言って、マットの上にちょこんと座る結花に目を移す。
……さっきよりも透けてる気がする。
それに、頬を赤く染めて、俺の方を見てくるのは反則すぎる。
これで手を出さないでいられる彼氏はいないはず。
「一条先輩、いるんですか?」
びくっ、と俺たちはドアの方を見る。
姫宮が体育倉庫の前までやって来たみたいだ。
俺たちは弾かれたように立ち上がる。
「ああ、開けてもらえると助かる」
「今開けてますから、大丈夫ですよ?」
雑な扱いを受けてきたのか、なかなか鍵は開かずにガチャガチャ音が鳴っている。
その間に結花は、ブレザーを羽織って服装を整えている。学校だしイチャイチャの証拠隠滅はしないとな。
ガチャリ、と音がして、俺たちは1時間ぶりぐらいに日の光を浴びた。薄暗い倉庫の中にいたせいで、光が入ってくると目がチカチカして痛い。
「ありがとう、姫宮」
「えへへー、もっと褒めてもらってもいいですよ? 頭を撫でてもらったりしても」
もっと褒めろ、って感じで姫宮は俺を見上げながら、でれでれと表情を緩ませて言う。
助けてもらったのは嬉しいけど、もうちょっとあそこにいたかった……ってこれは贅沢だな。
「せんぱい、なんか糸付いてますよー?」
姫宮は何気なく俺の制服から赤色の糸をつまんで取る。
あ、やべ。 結花もやばい、と思ったのか、目が泳いでいる。
「これって……?」
たぶん分かってるのに、姫宮は聞いてくる。……三段ぐらい普段よりトーンを落として。
将来鑑識になった方がいいと思う。絶対向いてるよ!
もしかしたら、さっき姫宮がくっついてきた時に付いたかも、と希望を持ってはみたけど、そういや学年ごとにネクタイの色違うわ。詰み。
「説明、してもらえますか?」
色んな感情が通りすぎた後に、姫宮はにっこり微笑んで言う。
「はい……」
俺たちは、教室まで姫宮に連行されてきた。
「で、先輩たちは倉庫でなにしてたんですか?」
机に肘をのせて、まるで取り調べのように聞いてくる。にこーっと微笑んでるのが逆に怖い。
「いや……まあ、閉じ込められたわけだし、ちょっといろいろありまして」
「正直に言って、せんぱい?」
姫宮からすんっと微笑みが消える。ひっ、と変な声が出かけた。普段の様子からは想像できないくらい威圧感がある。
……こういう時に、一番言ってはいけないことランキング第1位。
それは、「なんでもするから許してください!」だ。(俺調べ)
俺は前、結花に「月、綺麗だね?」と言われた時並みに頭をフル回転させる。
あの時は結花の可愛さにドキドキしたな。今もドキドキしてるけど、真逆のドキドキだよ。
「……結花が可愛すぎてイチャついてました」
「ひゃっ!?」
結花は茹でられたのか、ってぐらい顔が赤い。
「私が先輩たちを探してる間に、ってことですか?」
姫宮は再びにこーっと微笑んで質問してくる。
「……そうです」
罪を告白するときの犯人の気持ちが少し分かった気がした。
「1つお願いを聞いてくれれば、私は先輩のことを許してあげます」
「なんですか」
俺は食い気味に質問する。探してくれてたのに、流石に悪いことしたな。
「私ともっと親友らしいことしてください。例えば、一緒に遊びに行くとか。別に一ノ瀬先輩のチェックが入っててもいいので」
……あれ、意外と命拾いした? 結花もぽかーんと姫宮のことを見ている。
「2人ともそれでいいのか、って顔してますね。別にいいんですよ? 1日せんぱいのことを独り占めさせてくれたって」
「……私でもせんぱいと閉じ込められたらイチャイチャしたいと思いますし、今回は許してあげます」
姫宮は付け加えて言う。
案外姫宮はこういうとこ優しさがあるんだな、とか思う。
「あー、いませんぱい、私のこと優しいなーって思いましたよね? そんな私のこと、好きになってもいいんですよ?」
姫宮はニヤニヤしながら俺の方に寄ってくる。
……やっぱダル絡みしてくる後輩だったわ。
まあお詫びに今日のところは高級アイスを奢ろう、とは思った。
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