体育倉庫で
俺たちは、マットの上に体操座りで座った。体育用具としては珍しく、新品の匂いがする。安心して座れるな。
「スマホとか持ってたりする……?」
「カバンの中だ……」
ほんとに外部との連絡がシャットアウトされてるんだが。どうしよう。
「誰も来なかったら、明日までこのままかも」
「えええ……」
結花の作った夜ご飯が食べれない……?
落ち込みかけている俺に、結花がぐっと近づいてくる。
「しょうがないから……この状況、楽しも?」
結花は耳元でそっと囁いて、俺が顔を上げると、意味ありげに微笑んでみせる。
「まあ、こんなとこに閉じ込められるなんて、なかなかできる経験じゃないよね」
俺もニヤッと笑いながら返す。
……そうは言ったものの。密室に2人きりで閉じ込められた、という状況で心臓がばくばく言ってる。
観覧車と変わらねえだろ、俺?
結花も同じ感じなのか、お互い無言でずっと自分の心臓の音しか聞こえない。
ちょっとずつだけど、結花がさらに近くに寄ってきた気がする。
結花の甘い匂いが、俺を誘うかのように香ってくる。
俺の視線に気付いたのか、結花は俺の方に期待のこもった眼差しを向ける。
じゃあ……いいかなあ。
俺は手を伸ばして、結花の綺麗な黒髪をそっと撫でる。
結花の髪はさらさらで、流れるようだ。
俺が髪を撫で続けていると、結花は気持ちよさそうにゆっくりまぶたを閉じる。
俺は、結花の髪を撫で続ける手を止めると、結花はちょっとだけ残念そうな表情をする。
……正直、俺が髪を撫でるだけじゃ満足しきれなくなってきたんだ。
俺の悶々とした思いに気が付いたのかは分からないけど、結花はマットの上にごろんと転がる。
より悶々とした思いは強くなったんだが。
「ここ、なんだか暑いね。それに、ずっと座ってたらちょっと疲れてきちゃった」
「うん、窓壊れてて開かないし……」
そう言ってると、結花はいきなり着ているブレザーのボタンを外し始める。
ブレザーの下に着ている白のシャツがあらわになる。
白シャツと赤色のネクタイの組み合わせは最強だな、と謎の真理を得た。なにが、とは言わないが強調されるし。
汗ばむような暑さのこの部屋にいるせいで、シャツが水分を吸って、下着が少しだけ透けている。
見たらいけないものを見てしまってる感……。と同時に、めちゃくちゃキスとかイチャイチャしたくなってきた。
狙ってやっているわけではないからこそ、さらにイチャイチャしたくなるんだよ。
ただ、この誰もやって来ない密室という状況でイチャイチャし出すと、歯止めが効かなくなりそうだ。
悩みながら、結花の方に目をやる。
結花の、熱っぽいような、紅潮した顔を見ると、俺の中のなにかがぷつんと切れる音がした。我ながら思った通りになってる。
俺はマットの上の結花に覆い被さる。
「……いいよ?」
そう言いつつも、結花はちょっと恥ずかしがって目を逸らす。
ゆっくりと顔を近づけると、唇どうしが触れあう。んっ、と小さな声が結花から漏れる。
今までで一番、心臓の音がうるさいキスだった。
「学校でこんなことするなんて、ゆうくんは悪い子だね?」
さっきはちょっと恥ずかしがってたのに、今は煽るような発言をしてくる。
「……」
俺は再び結花の唇を奪う。
俺が何も返さずにキスをしてくると思っていなかったのか、結花は驚いたような表情をしたあと、ふにゃふにゃと力が抜けていく。
「うん、そうだよ?」
学校でイチャイチャするという背徳感でおかしくなりそうだ。
「悪い子のゆうくんも、好きかも」
「そういうところ、ずるいし……すごく可愛い」
「……!?」
結花は顔を真っ赤にして、両手で顔を隠そうとする。でも、俺はその手を掴む。
「結花の顔、見たいな」
「……もう」
結花の顔はまだ真っ赤だ。
たまには俺にも攻めさせてください……!
誰かがドアを開けに来るかも、ということはもうすっかり頭から抜けていた。
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