沖縄旅行④
「……ゆうくん、起きて? もう9時だよ?」
結花に優しく揺さぶられて、俺は目をゆっくりと開ける。
なんだ、9時か……えっ、もう9時!?
結花は俺が起きるまで待っててくれたらしい。遅めの朝食を2人で一緒に取る。
「今日は海に行くんだよね?」
「うん! ……ごめん、起きるの遅かった」
「大丈夫だよ、もともとお昼から行く予定だったから」
結花は昨夜の様子とは打って変わって、普段通り落ち着いているみたいだ。
俺、結花のこと直視できないんですけど……。
まだどきどきしてる感覚が残ってるのは俺だけなのだろうか。結花があまりにも普段と変わらない様子だから、それはそれで気になる。
昨日のテンションの結花なら、「海はいいから、私と一日中部屋にいよう?」って朝から甘く誘ってきそうだけど。
俺たち、昨日なにか変なものでも食べたかなあ……。
◆◇◆◇◆
(ゆうくん、昨日のことあんまり意識してないのかな……?)
私は一緒に朝食を取りながら、ちらちらゆうくんの方を見る。
そのあと、ゆうくんが私の分のお皿まで下げてくれるときに、手が触れ合ったのもなんだか普段以上にどきどきしてしまった。
昨日もう少し攻めた方が良かったのかな、でもゆうくんを押し倒したのが限界だよ……。
漫画でよく見るぐるぐる回ってる目になってそうだな、と私は思いながら着替えはじめた。
◆◇◆◇◆
俺たちはホテルを出てすぐの海に向かう。
結花は上にラッシュガードを羽織っている。
しかし、海に入るのが待ちきれないのか前のファスナーを半分ほど下ろしている。
「ゆうくん、行こ行こ!」
俺の手を引いて結花は走り出す。俺もあわててそのスピードについていく。
ファスナーの間から、谷が覗いてるんですけれど……。
俺はそのことを言うべきか迷う。
まあ周りに人いないからいいか……。
最近結花が実は小悪魔系なんじゃないか、って俺は密かに疑ってる。
全部計算ずくだったりするのか……?
でも、心からの笑顔で俺の手を引いていく結花を見たらそんなのどっちでもいいや、可愛いから。って風に俺の思考は収束した。
それに、俺にしかこの感じじゃないし。なんか自意識過剰みたいで恥ず。
俺たちは波打ち際までやってきた。
浜辺はほぼ透明な青で、沖の方に目をやるとどんどん青が濃くなっていっている。
「なにする?」
俺が聞くと、結花は2人用の浮き輪を取り出して膨らませはじめる。
結花がチューブに一生懸命息を吹き込んでるのをじっと見てしまう。特に口元を。
「こんな感じかな。ん……どうしたの、ゆうくん?」
「いえ、なんでもないです」
俺は自分の脳内がピンク色すぎることに若干引きつつ、真顔を頑張って作って答える。
「? まあ楽しもうね、ゆうくん!」
「うん!」
俺たちは波打ち際から沖の方に移動して、浮き輪にのる。結花はラッシュガードを脱いで、白い肌をあらわにしていた。
プカプカと浮かぶ浮き輪の上で、透明な海を楽しむ。
お、魚いるじゃん。
「……もっとこっち見て?」
「へ?」
俺は視線で魚を追いかけるのをやめて、顔をゆっくりと上げる。
結花もそんなこと言う予定じゃなかったのか、ちょっと慌ててる。
「あ……ゆうくん、朝からなんだか普段通りだなって。昨日のこと……あんまり意識してないのかなと」
「いやいや、そんなことないよ! 逆にちょっと恥ずかしくて直視できないというか」
「そっか。なら私も、おんなじかも」
結花は少し恥ずかしそうで、嬉しそうだ。
俺もなんだか恥ずかしいような……このままぎゅっとしたいような謎ムードになる。
……俺たちは海遊びに来たんだよ?
「ま、まあ……海は楽しまないと損だよ?」
そう言って俺は水をかけようと構える。水鉄砲隠し持ってて良かった。
「うん、ゆうくんの言う通りだね」
「!?」
結花もなぜか水鉄砲を持っていた。そうか、ラッシュガードで隠してたのか。
「ゆうくんが持ってきてるの、気付いてたんだ」
結花はそう笑いながら言う。
「じゃあ浮き輪から降りて……やりますか」
「うん!」
俺たちは互いの顔を見てうなずいて、浅くなってるとこではしゃぎまわりはじめた。
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