結花の親
俺は緊張した面持ちで結花の家のドアの前に立つ。なにこれ面接なの? まあ実際面接なんだけど。
……なに言ってんだ俺。
「じゃあ、行ってきます」
「うん。 ……ごめんね? ゆうくん1人で行ってもらって……」
結花はだいぶ申し訳なさそうに言う。
「いや、結花のお母さんがそう言ったなら仕方ないよ」
俺は、結花に寒くないか聞いてから、覚悟を決めて、「お邪魔します!」と言って結花の家の中に足を踏み入れた。
「こんにちは。……一条優希と言います」
正直緊張する。……でも、許可ゲットして結花を喜ばせるんだ!
「こんにちは、私は一ノ瀬怜花です。いきなり呼び出したみたいになってしまって、ごめんなさいね?」
怜花さんの茶色みがかった大きな瞳や、伸ばしていて滑らかな黒髪とか、結花が受け継いだんだろうなと思うほど似ていた。
「いえ、自分から行きたいと言ったので大丈夫です。むしろ、忙しい中予定を開けてくださってありがとうございます」
「どういたしまして。 それじゃあ、さっそく本題に入りましょう。……一条くんは結花を幸せにする覚悟はあるの?」
怜花さんの第一印象は物腰が柔らかいな、って感じだったけれど、急に目の色が変わった気がする。
「もちろんです。私にとって結花さんは……本当に特別な存在です、人生でもうこんな出会いはないと思うくらいに。 私は、そんな結花さんの笑顔がずっと見たいです。
だから、笑っていてもらえるように、不幸なことははね除けていきたい、そう思っています」
俺は怜花さんの瞳をまっすぐ見つめて言う。
「……まあ、第一審査は合格かな?」
怜花さんは結花がたまに見せる表情みたいに、いたずらそうに微笑んで言う。その感じ、めちゃくちゃ怖いってえ……。
「次は、学校での事を聞きます。学校での結花の様子は、どんな感じなのかしら?」
「授業中はもちろん、授業の合間の休み時間にも学習に取り組んでいて、見習わなければならないと思っています。 そして、昼休みに日替わりでお弁当を作って食べるのが……その、癒しです」
最後の惚気は必要なかったな、と後から思った。が……
「そうなの! もっと詳しく聞いてもいい?」
怜花さんはなぜだかノリノリのようだ。
「一条くん、結花を幸せにしてあげてね。きっとあなたにしかできないことだから」
結花のお母さんは去り際にそんな言葉を残していく。
俺はなんとなく、その声に寂しさが含まれているのを感じる。
「……待ってください!」
「どうしたの?」
怜花さんは立ち止まって振り向く。
「結花のことを大事に思ってくれてるっていうのは俺でも分かります。だからこそ……あなたには俺ができないことをしてほしいです」
「……そうよね」
怜花さんは窓のところまで行って、外を眺めながら呟く。
「私、会社の社長をやってるの。それでなかなか帰ってこられなくて……結花には申し訳ないと思ってる」
「そうだったんですか」
「今さら遅いかもしれないけれど、少し早く帰ってこられるように頑張ってみる。そうしないと……結花に向き合ってくれている一条くんにも申し訳ないから」
そう言って、怜花さんは俺の方に向き直る。
「旅行、楽しんできてね。お土産話、いつか聞かせて?」
「もちろんです!」
「どうだった、ゆうくん?」
結花は心配そうに俺を見つめる。俺は親指をぐっと立てて笑いかける。
「良かった……!」
結花は俺に飛び付いてくる。
「ほんとに良かったね、結花」
俺は、旅行とこれからの一ノ瀬家が賑やかになるのを想像して、微笑む。
「旅行、沖縄に行きたいんだけど……ゆうくんはどう?」
結花は俺から離れて、聞いてくる。
「おお、楽しそうだね」
「じゃあ決まりね!」
俺たちはさっそく、今から計画を立てることにした。
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