バレンタインを前に①
「なあ、優希。今日一緒に帰らねえか?」
ロッカーに教科書を並べていると、翔琉が横にすっと現れた。
「おー、いいよ。結花どっか行ってから帰るらしいから。……あれ? 翔琉こそ、天野さんは?」
「んー、じゃあ女子会か?まあ俺たちも男子会ってことで」
「なんだそれ」
俺たち2人で帰るのは久しぶりな気がするな、と校門を出てふと思う。
「なあなあ、そろそろバレンタインじゃないか?」
翔琉はわくわくした様子で言う。まあ今年は翔琉もしっかり貰えそうだしな。
「確かにそうだな、今年も楽しみだな」
「俺ももらえるかなー」
駅までの道にあるケーキ屋からも、甘い香りが漂ってくる。俺はついつい吸い寄せられるように、ガラス越しに店内を眺める。
「あ、一条せんぱいじゃないですか! あと成瀬先輩も!」
立ち止まったことで見つかってしまったらしい。姫宮はバタバタとこちらへ走ってきた。
「そろそろバレンタインですね、せんぱいは甘いもの好きですか?」
「……まあ、好きだけど」
俺は少し考えて、一応答える。嫌いとか言ってめちゃくちゃ苦いのとか押し付けられてもなので。
「じゃあ、楽しみにしててくださいね!」
「え、姫宮って料理できるんだっけ」
俺はクリスマスイブを思い出して、疑問に思ったので素直に聞いてみる。
「なっ! そんなこと女の子に言っちゃだめですよ! ……一ノ瀬先輩に教えてもらおうかな」
「姫宮のそのメンタルは尊敬しかねえよ……」
なんで姫宮にとってのライバル(それに先輩)に教えてもらおうとするんだよ。
絶対教えてくれないだろ……。いや、ライバル視してないからそれぐらいは許すのかも。どちらにせよバチバチするだろ。
「あ、成瀬先輩にもたぶん渡すので、楽しみにしててください」
そう言い残すと、姫宮は走って行った。今日はいつにもなく嵐みたいだったなあ……。
「やっぱ後輩ちゃんは面白いな」
あからさまに態度が違ったのに、その一言で終わらす翔琉の心綺麗で広すぎ。ウユニ塩湖みたい。
「今年のバレンタインは面白いラブコメ展開になりそうだな!」
そういうことですか……。
結局、俺たちは甘い香りの誘惑に負けて店でデザートを買って帰った。
◆◇◆◇◆
「ではこれからバレンタイン作戦会議を始めます! メンバーは私、天野と結花と花奈で!」
「おー!」
私たち3人はスタバでフラペチーノを満喫しながら、話し合うことにした。
「でも、私は男子にあげる予定ないけど……?」
花奈は少しだけ不安そうに私たちに聞く。
「でも、花奈の意見も聞いておきたいかなって」
私はそんな花奈に、思っていることをそのまま言う。
「え、ほんとに? えへへ、それなら私もアドバイスとか頑張るね!」
「ここにはチョロインしかいないのか……まあ私もなのか」
花奈は頬を緩ませて、口調まで柔らかくなりすぎている。
あかりは私たち2人の顔を見ながらなにやら呟く。
「どういうの作ろうかな」
私はフラペチーノを飲み終えて、カップを置きながら言う。
「……結花って、一条くんの話するときほんと顔変わるよね」
「たしかに……ちょっと悔しいけど」
2人は私を覗きこんで、うなずき合って言う。
「え……? どんな……?」
私は自分がどんな表情をしてるのかわからないので、2人に聞いてみる。
「ん、恋する乙女みたいな?」
「うん、これなら一条くんの前はどんな感じなんだろ」
「こないだボウリング行ったけど、今の2倍ぐらいとろけそうな感じ」
「え……私も今度呼んで?」
「そ、そんなにバレてる?」
私の言葉を聞いて、2人はニヤニヤしてこっちを見る。
私はいつもゆうくんの前でどんな表情してるんだろ。
2人に指摘されて、少し恥ずかしいけど、ゆうくんの前でだけ見せる表情があることは嬉しく思った。
いつも読んでくださりありがとうございます!
更新遅れてしまいすみません!
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