休み明けの朝
「……あ、そっか」
俺は目を覚ますと、隣に誰もいないのに寝ぼけ眼でついつい横を確認してしまう。
そしてなんだか虚無感に襲われる。ここまでが最近の俺のモーニングルーティン。
正月が終わってから抜け殻みたいになってた。
結花との高校での日常が今日からまた再開されるわけだが……あんまり学校には行きたくない。
昨日までは朝、結花に電話かけたりしてたのに、今日からできないじゃん……。
俺は迫りくる現実から目を背けるべく、布団の中にじっと潜る。
「今何時だ……?」
二度寝してたみたいだ。 冬場の布団の魔力、恐るべし。
「やっべ、もう7時じゃないか!?」
昨日の朝電話で結花が指定してきた時間まであと10分だ。なぜいつもよりだいぶ早く学校に行くのかはわからんが。
俺はパジャマから制服へと早着替えをし、ちゅーっとエネルギーゼリーを飲み干す。
お正月に家族に料理を振る舞っていた俺はどこへやら……。
そしてお湯で顔を洗おうとする。
「つべたっ!?」
お湯が出る前の冷水を思い切り顔に浴びせてしまい、変な声が出る。洗面所の鏡に写っている俺の目は明らかに死んでいた。
今すぐパジャマに着替えて布団に戻りたい……。
ここで、来訪を告げるインターホンが鳴る。これで宅配便とかだったら布団に逆戻りルートです。
俺は期待しながら、スキップでもしたいような気持ちで玄関のドアを開ける。……期待した方が、違ったときの衝撃は大きいんだけど。
「おはよう、ゆうくん」
「おはよ、結花」
俺の期待通り、結花がやってきてくれた。結花は朝日を背中にして、なんだか輝いて見える。
天使がいるとしたらこんな風に輝いて見えるんだろうな……とか、俺がふわふわとした脳で考えていると、結花が俺の前へと、ぐっと距離を詰めてくる。
「ゆうくん、襟曲がってるよ」
そう言いながら結花は制服の襟を直してくれる。
結花が動いたことで、辺りに甘い香りが広がる。
「ありがとう、やっぱり結花は気配りがすごいな……いつも助かってます」
「うん、どういたしまして」
玄関にずっといるのも寒いので、俺たちは家へと上がる。
「ゆうくん、朝ごはん何食べた?」
「あ……そ、それは」
俺はゼリーで最低限のエネルギーしか摂取していないことを言うべきか迷って、しどろもどろな返事をする。
「ゼリーとかでしょ?」
「バレたか」
「こないだ夕食作ってたのにね」
そう言って結花はニヤッとして俺の方を見る。まあ……あの日は頑張ってみたから。
「……そんなゆうくんに朗報があります」
「なんですか」
つい食い気味に問いかける。
「一緒に朝ごはん食べよ?」
結花は用意してきたらしい2つのお弁当箱を取り出す。
「え……いいの?」
「うん、私がゆうくんと一緒に食べたくて作ったから。たぶん休み明けはギリギリに起きるだろうなーと思って」
「めちゃくちゃ当たってる……」
「まあ、誰よりもゆうくんのこと知ってる自信あるからね」
結花はドヤッと、もともと主張の激しい胸を張る。結花の唐突なデレに俺はぽかーんとしていると、結花は付け足す。
「あ、さすがにお義母さんたちには負けるかも」
俺がぽかーんとしているから言ったんだろうけど、それは問題ではないんだよなあ。
「ありがとう、いただきます」
俺がそう言うのを、結花はニコニコ笑って聞いて、一緒に食べ始める。
卵焼きと、ほうれん草のおひたし、大学芋が弁当箱の中に詰められていた。それに、保温容器には豆腐やわかめ、にんじんと大根が入った具沢山味噌汁が入っている。
俺が今日の朝食べたかったものを完璧に抑えられてる。
ほんとに俺のこと知られてる。俺検定マイスター認定。
「今日からの学校、楽しみだね」
「あー、まあ楽しみだけど……正月休みが楽しすぎたから戻りたいな」
「たしかにね」
俺が正直に言うと、結花は微笑む。あ、でも……。
「……でも、結花がこんな風にやってきてくれたから、今日は楽しみだな」
「そう言ってもらえるなら、来て良かった」
俺たちは朝食を済ませて、家を出た。家を出る前に鏡を見ると、俺の目は輝きを取り戻していた。
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