また来年
あっという間に大晦日、お正月が過ぎて、俺たちが東京へと帰る日がやってきた。
目を覚まして、眠い目を擦りつつ辺りを見ると、見慣れた布団ですやすやと口元を緩ませて寝ている結花が隣にいる。
「無防備だなあ」
良い夢でも見てるのだろうか、微笑みながらなにやら寝言をぼそぼそ言っている。
隣で可愛い彼女が寝ているのに、なにもしない、というかしたくならない彼氏はいるだろうか、いや、いないっ!
というわけでわずか20cmほどの距離にいる結花を見ながら、俺は悶々としていた。
「どうしたら起こさずに触れるものか……」
いや、結花も前俺のこと起こそうとしてたから大丈夫か。
できるだけ起こさないように配慮はして……。
俺は結花のマシュマロみたいに柔らかなほっぺたをそっとツンツンする。
結花はどうしてこんなに頬が柔らかいのだろう。べつに余計な脂肪とかついてないのにな。
俺は結花の頬をふにふにして、その柔らかさを堪能しながら考えてみる。
んー……わからん。まあ気持ちいいからいいか。
俺は無心で結花の頬の柔らかさを感じ続ける。
「……んっ」
結花が甘い声を漏らす。やばっ、起きちゃうかな。
俺が、ふにふにしていた指を離すと、結花はごろんと寝返りを打つ。
俺はのそのそと膝歩きでら結花の顔が見える反対側へと移動する。
さっきの甘い声で、さらに悶々とした気分になった。
「ん……あ」
結花がパッと目を開けた……ような気がした。
あれ……? でも起きたはずなのになかなか体を起こさないな。二度寝してるのか。
「続きやってもいいよ、ゆうくん?」
たぬき寝入りか、と思いながら俺は結花の顔を覗き込む。目を開けた結花はニヤッとして、俺の瞳の奥をじっと見る。
「まだ起きなくてもいいでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「私はゆうくんが続きするまで待ってるね」
結花はくすっと笑いながら、また瞼を閉じる。
俺はしばらく迷ってから、さっきのふにふにを再開する。
「……気持ちいい」
いつの間にか、正座している俺の膝の上に結花は頭をのっけていた。
俺に全てを委ねるかのように、結花は目を瞑っている。
「毎朝こんな感じだったらいいのになあ」
俺はふにふにを継続しながら呟く。
「私は、ゆうくん家に毎日泊まってもいいけど?」
「隣の部屋とかだったらねー」
それに、毎朝結花がデレてくるのは刺激が強すぎる。学校行くのも忘れてしまいそうだ。
ただ、隣の部屋どうしだったら玄関前まで一緒に帰ってきたりできるのか……いいなあ。
「朝ごはんできたよー!」
部屋の外から、俺たちを呼ぶ母さんの声が聞こえてくる。
このままずっとここにいたいな、と思いつつ、これからの出発を惜しみながら丁寧に布団を畳んだ。
父さんと母さんは、わざわざ駅まで俺たちを見送りに来てくれた。
「また帰っておいで、もちろん結花ちゃんも一緒でね」
「またよろしくお願いします!」
「うん、待ってるよ」
東京に戻っても、また結花とのあたたかな日々は待っている。
どこにいるより、誰といるか。
そんな言葉がパッと頭に浮かぶ。親といる時間も、もちろん好きだけれど。
来年またここに戻ってくるのも楽しみだ。
俺は、この場所との別れをずっと惜しむより、ここでの甘々具合と変わらない、もしくは上回るかもしれないこれからの結花との生活を楽しみにすることにして、電車に乗り込んだ。
「また来年、だね」
俺の親に、その姿が見えなくなるまで手を振ったあと、結花が約束を確認するように言う。
「そうだね。あ、今年の秋でもいいよ、紅葉綺麗だし」
「それもありだね」
俺たちは隣に座っているお互いの顔を見て、微笑んだ。
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