実家へ出発
実家に帰る日の朝が来た。
俺たちは昼前の電車に乗るので、まだしばらく時間がある。
結花からは、「もう少ししたら家出るね」とメッセージが送られてきた。
それだけで俺はわくわくして、じっとしていられない。
久しぶりに実家に帰るのも楽しみだし、それに結花も一緒だなんて。
電話が鳴り、俺は結花だと思ってノリノリで通話ボタンを押す。
「優希、聞いてほしい話があるんだけど」
やけに深刻そうな翔琉の声がする。
「どうした? 彼女でもできたか?」
自分でも雑な返しなのは分かってるけど、まあいいだろ。
「それがな……。人生初のクリぼっち回避したんだよ」
「え、ほんとに? 良かったじゃん。誰と?」
やっと翔琉の青春ラブコメは始まったか。
というかクリスマスのことならもう少し連絡早くても良かったぞ。
もう俺お正月気分だから。
電話に耳を近づけると、翔琉はウキウキして声が弾みかけてるのをなんとか抑えようとしているのが分かった。
「……天野さん」
「なるほど」
俺はお似合いだと思う。趣味とか合いそうだしな、天野さんも俺たちのことニヤニヤ見てくるし。
「で、なにしたの、クリスマス」
「イルミネーション観に行った」
「2人で? もうカップルじゃん。 ……あ、俺らイルミネーション観に行ってねえ!?」
ぐぬぬ……。
クリスマスと言えば恋人とプレゼント交換か冬空の下でイルミネーションだろ。いや、どっちもやらないと。
「ゆうくん。……寒いから、手繋いでもらってもいい?」って言ってもらいたかった。一緒に暖かな光の中で歩きたかったな。
悶える俺をよそに、翔琉は話し始める。
「俺、どうしたらいいかな? 告った方がいいかな?」
「ちょっと早すぎやしませんか? ま、当たって砕けろって翔琉も言ってたからいいんじゃね」
「俺、そんなこと言った記憶ないけどね!?」
翔琉さん、なんで自分のラブコメになったらこんなにもポンコツになるんですか。
まあ結花が来るまで落ち着かずに待つよりかは恋愛相談聞いたほうがいいかな、聞いてあげよ(謎目線)
それにしても、なんだか冷えてきたな。隙間風かな?
「まあ、まっすぐな気持ちを伝えたらいいんじゃないか。俺もそうだったし。……最近ちゃんと気持ち伝えれてるかなあ、俺」
「ちゃんと伝えないとだめだろ、言わないと伝わらないぞ?」
「その言葉、そっくりそのまま返してもいいか?」
「う……そうだな」
「まあ焦らなくてもいいから、伝えたらいいじゃん」
そういうことで翔琉は一応納得してくれたので、電話を切る。
「おはよ、ゆうくん」
結花が俺の肩にそっと触れる。俺はびっくりして危うく腰を抜かすところだった。
「なっ……いつから? っていうか鍵は?」
「前合鍵くれたじゃん、ゆうくん」
そう言うと結花は手のひらにのせた合鍵を見せる。
あ、前に合鍵渡してたこと忘れてたわ。
結花は「あと、あのね」と言って俺のことをまっすぐ見つめる。
俺は結花の方に向き直る。
「……ゆうくんの気持ちは、ちゃんと私に伝わってるから」
「……そっか。それなら良かった」
そこから聞かれてたか、と俺は少し恥ずかしくなる。
まあ結花への感謝とか、好きだって気持ちは伝えても伝えきれないぐらいに大きい。
これからはたまに口に出して伝えてみよう、と思う。
「じゃあ、出発する?」
「そうだね」
俺たちは雲ひとつなく、からっと晴れた空の下、駅へと歩き出した。
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