照れ結花
「暖まったねー」
「うん。それなら良かった!」
俺はあやうく本来の目的を忘れてしまうところだった。危ない危ない。
「……前みたいに、髪乾かしてもらってもいい?」
「もちろん」
そう言いながら、俺はドライヤーを取り出す。
結花の、絹みたいに滑らかな黒髪に優しく触れる。
前やった時よりは手際よく乾かせたかな。
「自分でするより、ゆうくんにやってもらうとやっぱりいいね。……なんだか、お姫さまになったみたい」
「そう言ってもらえると嬉しいな。……わたくしが、毎日乾かして差し上げましょうか?」
結花は洗面所の鏡を見て、俺の方を向いて感謝を伝えてくれる。
俺が冗談めかして、お姫様のお世話係(?)になったつもりで言うと、結花は「ゆうくん、ノリいいね」と笑う。
……調子乗りました、お世話されるのは俺だな。家事やってもらってるし。
俺たちは洗面所を出て、部屋に戻る。
俺は助走をつけてベッドに飛び込む。なんかさっきからあくびが止まらないんだよな、昼はしゃぎすぎたかな。
隣でもベッドに飛び込む、「バフッ」って音がした。
そして結花はごろんと転がって顔を俺の方に向ける。
「えへへ、気持ちいいね」
真っ白なネグリジェを着てベッドの上で横になってて、綺麗な黒髪が流れるように広がっているという大人な感じの姿と、子供のような無邪気な様子になんだか結花らしさを感じる。
その姿をずっと見ていたいな、と思う。あと同時にキスしたくなってきた。
「!?」
前不意打ち食らったことあったはず、と思いながら、俺は体を起こして結花にキスをする。
そんなことなかったかも知れないけれど。
どうしてこんなに柔らかいんだろう、と唇を重ねながら思う。
ほんのり甘いような気もするし、いつまでもこうしていたいけど、さすがに2人とも息が持たなくなるかも。
「……ゆうくん、ちょっと強引だった」
「あー……それはごめん」
結花は顔を赤くして、ぷいっとそっぽを向いてしまう。あれ……?
俺はやらかしてしまったな、と思いながら首の後ろを触る。
「でも、ゆうくんになら……強引にされてもいいかな」
「う、うん」
「そのかわり、私もやっていいってことだよね?」
「そうだね」
さっきの感じはただの照れ隠しだったのか。安心した。
背中合わせだけど、結花の表情が想像できる。
照れてる顔は最近まったく見せてもらえてないから、こっち向いてもらいたいんだけど。
「意地悪してくるゆうくんは日付が変わるまで寝かせません」
ゆうくんは俺の方を向き直して、いたずらそうに言う。
明日も2人でゆるゆるクリスマスを過ごすわけだし、ゆっくり話そう、ってことになった。
いつの間にか寝落ちしてしまっていた。毎回こうだな……。
結花は……隣で無防備にすやすやと寝ている。
心を許してもらってるのはすごく嬉しいけど、俺だって健全な(以下略)。
まあ、しないけど。「強引に……」のくだりはキスの話なだけだろうし。
というかする勇気がないけど。
そんなことより、俺はしたいことがあったんだ。
小さな寝息を立てている結花を、起こさないように気をつけて俺は慎重に動く。
「これでよし、と」
クローゼットに入れておいた結花へのプレゼントの包みをそっと枕元に置く。
一仕事終えたら眠くなってきた。一休みするか……。
◆◇◆◇◆
「ん……あ。 私も寝ちゃってた」
ゆうくんが隣で丸まって寝てるのが目に入る。
まだゆうくんがキスしてきたときの感触が忘れられない。
いきなりでびっくりしたけど、最近は私がぐいぐい行ってたからちょっぴり新鮮で、またあの感じを求めたくなる。
ドキドキする気持ちからじたばたしたくなる衝動を、ゆうくんの寝顔を見てなんとか抑える。
「あれ……? なんだろ」
枕元にラッピングされた箱が置いてあることに気付く。
「ゆうくん、プレゼント置いてくれてたんだ」
つい嬉しくなって、ラッピングを開けようとする。
開く寸前で、私はその手を止める。
「朝開けた方がいいかなあ。あ、私もゆうくんの枕元にプレゼント置いとこう」
持ってきたバッグの中から、ゆうくんへのプレゼントを取り出す。
「えへへ、ゆうくんの反応が楽しみだな」
なにしろ、自分がプレゼントを置いたときにはなかったはずなんだから。
「起きたら、枕元にプレゼントがあるときの気持ち、分かったなあ」
ゆうくんは私に、今まで知り得なかった気持ちを教えてくれる。出会ってから、ずっとそうだ。
「これからも、私に色々思い出をください」
私は気持ち良さそうに寝ているゆうくんを見ながら、そっと呟いた。
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