家事代行の理由
あっという間に夏休みが来る。
1学期の期末後とかウイニングランみたいなもんだしな。
「夏休みは家事代行どうしますか?」
終業式の日、帰ろうとすると一ノ瀬さんに声をかけられる。
「んー、いつも来てもらうのは申し訳ないし……」
「いや、いつでも時間あるので毎日でもいいですよ?」
凄く有難い。
でも自分の家で過ごさなくていいんだろうか……?
あと家族には何て言ってるんだろうな……?
(そろそろそこらへん聞いてみてもいいよね?)
夏休み1日目。
朝から一ノ瀬さんが来る。
いちおー昨日の午後のうちに掃除はしておいた。
「今日もよろしくー」
「はい、よろしくお願いします」
今日も美味しいお昼ご飯を作ってもらって、
夏休みの宿題も一緒にやって終わりの時間が来た。
「じゃあ今日はこれで終わりますね」
「うん、ありがとう。 あ、ちょっと時間ある?」
「はい、ありますよ?」
「夏休みいつも来てもらえるのは凄く助かるんだけど、一ノ瀬さんの家のことは大丈夫なの?」
少し表情が曇る。
「……帰っても結局1人なので」
「……そうなんだ…。
俺で良ければ話聞こうか……?」
「有難いんですけど、
長くなるので……」
「大丈夫だよ」
「私の親は片親なんです」
「……!」
予想外の告白に驚きを隠せない。
「父は私が小さい時に亡くなってしまって……
今は母だけなんです」
「……そうなんだ」
「母は私が今の環境のまま過ごせるように働いてくれているんですが……
毎日夜遅くまで働いていて、私が寝てからしか帰ってこないです」
「えっ」
返す言葉が見あたらない。
「母も私のことを考えて働いてきてくれていることは分かるんです。でもやっぱり寂しいんですよね……」
「そっか……」
俺はそれで納得して耐えられるだろうか。
いつも強く在るように見える一ノ瀬さんがそんな想いを抱えていたことは知らなかった。
「だから寂しさを埋めるために家事代行を始めてみようと思ったんです」
「……!」
「そうしたら誰かと関われて、認めてもらえると思ったんです」
家事代行の理由がやっと分かった。
お金を受け取ろうとしない理由も。
こんなに辛い理由で家事代行をしていたんだ。
そのことに気づいてあげられるまで、時間がかかりすぎた。
「ごめん、そんな想いでやってきてたことに全然気づけてなかった」
「どうして優希くんが謝るんですか?」
「え、だって……」
「最初は寂しさを紛らわしたいという想いでやろうと思いました。でも、優希くんと出会えて、家事代行も楽しくなったんです」
「……!」
「学校生活もそうです。いままで、頑張ったら母も褒めてくれるんじゃないかって思っていつも勉強してきたんです」
「それでいつもあんなに……」
「でも、褒めてはもらえませんでした。まあいつも帰って来れないんだから、話もできないのは当たり前なんですけどね」
一ノ瀬さんは寂しそうに笑う。
「え……」
「……優希くんは違ってました。私の努力を認めてくれた。それだけで私がいることに意味ができたような気がしたんです」
「一ノ瀬さんがいる意味はもともとあるよ」
「ありがとうございます……」
そう言って涙をこぼす。
こんなにも美しい涙は、もう一生見ることがないだろう。
そう思った。
(あれ……?)
気づいたら俺も少し泣いてた。
「だから、優希くんに言いたいことがあるんです」
涙を拭いながら、いつものような微笑みを見せて一ノ瀬さんは言った。
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