修学旅行から帰ってきた後の週末
修学旅行から帰ってきた次の日。
俺の部屋には朝から結花が来てくれている。
修学旅行から帰ってきた後の週末ということで、2人でまったり過ごそうというわけだ。
「結花、何飲みたい?」
「んー、ゆうくんが淹れてくれるコーヒー飲みたいな」
「おっけー」
今日はもちろんお土産パーティー。
昨日買った八つ橋とかを食べまくるってわけだ。今日で全部なくなりそうで普通に恐ろしい。
八つ橋の甘さに合うようなコーヒーを、と思ってあっさりとした風味が出るように淹れてみる。
「どうぞ」
「わー、ありがとう!」
そう言うと、結花はゆっくりとカップを手にして、ふーふーと冷ましてからコーヒーを口にする。その仕草で俺の心はかき乱されて熱くなる。
「ふー、美味しい」
「良かった」
俺も自分で淹れたコーヒーを味わう。うん、良い具合に落ち着いた味だな。
「八つ橋の箱開けてもいい?」
「うん、一緒に食べよ?」
買ってきた八つ橋の箱を開ける。たくさん買ったので、色々な味の八つ橋がある。
まずは普通の味のからで。
「やっぱりコーヒーと合ってるね」
「うん、いつもと少し淹れ方変えたから」
「え、淹れ方でこんなに味変わるんだ。美味しいコーヒー淹れられるの、羨ましいな」
「いやいや、結花はほか色々できるでしょ……」
結花に褒められて少し照れくさくなった。
八つ橋は買ってきたものの半分ぐらい食べ終えた。開けてない箱一つか二つぐらい親に送るか。
「どうしたの?」
そう思って紙袋に入れていると、結花に何をしているのか尋ねられる。
「いや、親に送ろうかなって」
「そっか。……ちょっと羨ましいな」
結花は微笑んで言う。でも、その笑顔の裏に複雑な感情が見え隠れしている気がする。
「結花も、渡してみたら良いんじゃないかな。……俺がこうやって言っていいことじゃないとは思うけど」
「……そうだね。喜んでくれるかも、知れないし。渡してみるね?」
「うん」
結花は一瞬言葉を途切れさせたけど、最後は普段通りの笑顔を見せてくれる。
結花に寂しそうな表情をさせる結花の母親に一言言いたい、とは少しだけ思う。事情はあるんだろうけどさ。
「ゆうくんが荷物送りに行くの、付いていってもいい?」
「うん、大丈夫だよ」
俺たちは近くの郵便局まで歩いて向かう。
もう冬が近づいていることを知らせる木枯らしが吹いていて、肌寒い。
「結花、寒くない?」
「うん、まださっきのコーヒーの温かさが残ってるかな」
「なら大丈夫か」
郵便局で発送手続きを終え、家まで戻る。さっきより風が冷たい……。
暖かい家に入ったときの安心感というかなんというか。
「ちょっと寒いね」
結花が両手を合わせて暖まろうとしている。
その様子を見て、俺は急に結花を抱きしめたくなる。家を出る前の結花の表情を思い出すと、結花の心まで暖めたいと思った。
「どうしたの、ゆうくん?」
いきなり俺が後ろから抱きしめたので、結花は少し驚いた風に聞く。
「ごめん、あっためたくなって。嫌だったら離……」
「……離さないでもらってもいい?」
「……もちろん」
結花は小さな、しかしそれでいてはっきりとした声で俺に言う。
俺たちは玄関でしばらくの間そのままでいた。
「あったかい……」
結花は安心しきった表情を見せながら振り返る。
今度は向かい合ってハグをする。
「ありがとう、ゆうくん。心の中まで暖かくなった」
「うん。……結花にはいつも、あったかい気持ちでいてほしいから」
「ゆうくんはほんとに優しいね」
「このまま、ずっとこうしてたい」
結花は俺の胸に顔を埋めながら言う。
その様子を、何よりも愛おしく思って、結花の滑らかな黒髪を優しく撫でつける。
「うん、結花が満足するまでずっとこうしてもらってていいよ?」
結局、俺たちは2、30分ぐらいの間、お互いの温かさを感じ続けた。
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