修学旅行最終日
「もう最終日か……」
俺はゆっくりと体を起こす。京都の朝日を拝むのもしばらくの間はないな。
同室組はぐっすりと寝ている。
昨日は、班別研修の疲れがあったのか枕投げはなかった。あれ、けっこう疲れるんだよ。全身運動すぎる。
朝ごはんを食べ終え、集合場所のロビーに降りると、班の皆はもう既に集まっていた。
「京都駅で何買おうかな……あ、ゆうくん、おはよう」
「うん、おはよー」
今日の午前中は京都駅でお土産を買う時間で、午後は新幹線で東京まで帰る予定だ。
たしかに、俺も何買おうかな……。
俺たちは京都駅に着いた。と言ってもほぼホテルの目の前にあるけど。
京都駅のお土産コーナーで、買うものを探しまわる。
まあ、八つ橋は買おう。
そう思って八つ橋が置いてあるところに行くと、天野さんと橘さんがいくつも買い占めようとしていた。しかも、ニッキのとか抹茶味とか、様々な味の八つ橋を。
それ誰かへのお土産なの? 絶対自分ひとりで食べ尽くすよね?
そんなことを思っていたら、結花もたくさんの箱を持っていた。
「結花もそんなに買うの?」
「うん、ゆうくんと一緒に食べたいなって思って」
「ありがとう。……そういうことなら、俺半分買うよ」
そう言って、バランスを崩して落としてしまわないように結花から箱を受け取る。
「一緒に食べるの、楽しみだね」
にへへーって感じに結花が微笑む。もうお腹いっぱいになりそう。
俺たちは両手に荷物を持って新幹線に乗った。
「京都、楽しかったねー」
「「うん!」」
結花たち女子3人は、楽しそうに話をしている。結花の隣に座っている俺はその様子を眺める。
「結花の一番の思い出は?」
「んー、そうだなあ……。ゆうくんと2人で夜景見たことかな……あ」
その瞬間、周りの注目が一気に俺たちに集まったような気がした。俺たちというか、俺に。
明らかに周りがざわざわし始める。「そろそろ許せなくなってきた」とか嫉妬の声が……。
今、「次の名古屋で下ろして行くか!」って聞こえたんだけど。結花と一緒ならいいよ?
「夜景かー。一条くんって案外ロマンチストだったりするの?」
「いやーそんなこともないと思うけどなー」
この空気を気にせずに話を続ける天野さん強い。俺の周りの女子、基本強いがちだな。
「……で、その時の様子、詳しく聞かせて?」
天野さんは目を輝かせて聞いてくる。
やっぱり逃がしてもらえないみたいだ。
周りの皆は疲れて寝静まってしまった。
俺と結花2人は起きているけれど。
「ゆうくん、八つ橋食べない?」
「帰ってからのお楽しみじゃなくていいの? 俺、たくさん食べてしまいそう」
「一箱だけ、ってことで」
そう微笑んで言いながら、結花は既にバッグから一箱取り出している。
「皆で食べたのが懐かしいね」
「うん」
ニッキに包まれたあんの甘さが口の中に広がると、昨日のことが思い出される。
「……毎日一箱ずつ食べて、帰ってからも修学旅行のこと思い出そうかな」
「いいね。……八つ橋がなくなっても、私のお願いはずっと覚えててね?」
結花は、最近あまり見せない、少し恥ずかしそうな表情を見せて言う。
「もちろん。まあ、さっきみたいに言っておきながら明日には半分ぐらい無くなってるんだろうけど」
「有り得そうだね」
俺たちは顔を見合わせて微笑む。俺たち2人の間に、やわらかな空気が流れた。
「あ、そろそろ富士山見えるかも」
結花がそう言って、窓の外を俺と一緒に眺めて富士山を探す。
「あ、見えたよ!」
「お、ほんとだ」
とは言ったものの、俺の意識はまったく富士山に向いていない。
新幹線の小さな窓を2人で一緒に覗き込んでいるせいで、俺の背後の結花との距離はほぼゼロ。
(や、やわらか……)
シャンプーの甘い香りと背中に当たる柔らかい山で、俺の思考はショートしてしまいそうだ。
そんなことは知りもせず、結花はさらに窓側に寄ってくる。
俺の顔のすぐとなりに結花のぷにぷにしたくなるような頬がある。
ち、近いよ……?
新幹線はトンネルに入ってしまう。
もう少しさっきの時間続いて欲しかったな。
「富士山、綺麗だったね」
「うん、そうだね」
あんまり眺められなかったんだけどね。……山感じられたからいいか(?)
1時間も経たないうちに、神奈川県を通り過ぎ、解散場所の東京駅に着いた。富士山が見えるとこから東京までは短く感じるんだよな。
「また京都行きたいね」
「うん、結花と行きたいところがまた増えたなあ」
夕暮れの中、俺たちは帰りの電車に一緒に乗り込んだ。
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