修学旅行3日目④湯上がり結花
俺たちはホテルにたどり着いた。京都タワーが近づいてくるにつれて、俺たちの修学旅行もあと少しだということを実感して、ちょっぴり寂しくなる。
夕食を終えて、俺たちは風呂に向かう。今日も色々回って歩き疲れたので、その疲れを取りたいなあ。
脱衣所を抜けて大浴場に入ると、見慣れた後ろ姿のイケメンがいた。顔を確認しなくてもイケメンオーラが出てるの、なんなんだ。
俺は隣の椅子に腰かける。
「翔琉ー」
「お、優希じゃん」
「なんか久しぶりな感じするな」
「まあ、修学旅行でクラス違ったらほぼ会わないだろ」
「たしかに」
翔琉のクラスと風呂のタイミングがたまたま同じだったらしい。シャワーを浴びながら俺たちは話す。
温かいお風呂に肩まで浸かる。癒し……。
「京都でもイチャコラしてるか?」
「まあ。なんかいろいろ縁結びとかのスポット行ったんだけど、その度にデレてきて可愛かった」
「通常運転で尊いな……」
翔琉は俺の話を聞いただけで、満足げな顔をして立ち上がる。え、さすがにちょっと早すぎない?
「? もう上がるのか?」
「いや、優希の話を聞いてるとのぼせそうだなって」
「どんな体質なんだ……」
ほんとにこのラブコメ大好きイケメンは謎が多すぎる。
翔琉は風呂の縁に座って足だけお湯につけている。
「翔琉は縁結びスポットとか行ったのか?」
「ああ……」
翔琉の声がいきなりトーンダウンする。どうしたどうした。俺は恐る恐る翔琉の表情を伺う。
「おみくじ5回も引いたんだけどさ……全部凶だったんだよ」
「逆に凄い」
どんな確率なんだよ。願ったら運呼び込めそうなもんだけどな。やっぱり欲の出しすぎはダメってことか。……あれ、清水寺行ってないのかな。
「まあ、優希の話聞かせてもらえたら1ヶ月は彼女いなくても耐えられるから、詳しく」
「だからその特異体質なに!?」
結局俺が長風呂してのぼせかけた。翔琉はこれを見越して……? って、色々翔琉が聞きたがるからなんだけど。
「うわー、すずしー」
やっと灼熱の地から帰ってこれた。秋の空気がほどよくクールダウンさせてくれる。もう冬がすぐそこまでやってきているのを肌で感じる。
「俺先上がるわ、あとは楽しんで」
そう言うと、翔琉は急に小走りで階段を上がっていく。え、どうしたんだ? あと楽しんでってなんだ?
「ゆうくん」
後ろから結花の声がした。俺は足を止めて振り返る。
翔琉のラブコメ察知能力の凄さを思い知らされた。もはや恐ろしいまであるが。頭にアンテナでもついてんのか。
「ゆうくんもお風呂上がり?」
「うん、そうだよ」
俺と同じくお風呂上がりの結花の頬は、熱を帯びてほんのり赤くなっている。
「あ、髪濡れてるよ、風邪引いちゃう」
「そう?」
「うん」
結花は持っていたバッグからタオルをごそごそ取り出して、「拭こっか?」って聞いてくる。
俺はお願いします、と言いながら拭いてもらいやすいように頭を少し下げる。
結花はふわふわの白いタオルで優しく俺の頭を撫でまわす。
至近距離にいる結花から、シャンプーの香りだろうか、いつまでも嗅いでいたくなるような甘い香りがする。
「これで良し」
結花は俺の髪が濡れてないのを確認して、手を止める。
「ありがとう、結花」
「うん、いつもこれくらい念入りに拭かないとダメだよ?」
「気をつける」
「ゆうくん、忘れてそう……」
正直俺もそう思う。それならば……!
「結花が泊まりに来たときは、やってもらってもいい? 気持ち良かったし、それに、結花の綺麗な髪のケアの秘訣だと思うから」
「うん、いいよ」
結花を少しぐらい照れさせられると思ったんだけどな……。「泊まり」とか「綺麗な髪」とかキーワードは入ってるのに。
結花を照れさせること、これ則ち難問なり。
「一緒に住んだら、毎日拭いてあげられるね」
耳元でそれだけささやいて、「上あがろ?」と言いつつ結花は先に歩き出す。 ……ちょっ、まじで反則でしょ。
俺は出会ったころと比べると別人レベルで恋愛強者になった彼女に追い付いて、2人でエレベーターに乗った。
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