修学旅行3日目②清水寺参拝
赤い仁王門をくぐって少しだけ進むと、目の前に本堂が見える。
「見えてきたね」
「あ、あそこかあ」
何メートルあるんだろうか。上からの眺めを想像してみる。絶対高いだろうな……。
俺は手すりを掴んで清水の舞台から下の方を眺める。前乗った観覧車でも怖かったのにここで怖くないはずがないな。ジェットコースターより普通に怖い。
「うっ……やっぱり高いな」
遠く見た方がいいな。そう思って顔を上げると、京都タワーが視界に入った。意外と近い。
「……それなら、私の手、握ってて?」
「へっ!? あ、ありがとう……」
結花が流れるような長い黒髪を耳にかけてから、手をそっと俺の方に伸ばしてくる。
結花のイケメン(?)振りに女子2名はしばらくの間見とれて棒立ちになっていた。
なんかドキドキしてきた。
高いところが怖いからか、結花と手を繋いでるからか。たぶんどっちもだ。
俺たちは、眼下に広がるまるで錦のような紅葉を楽しむ。今は下を眺めても別に怖くない。
美しい風景を見ていると、昔の人たちの和歌を詠むときの気持ちがなんとなく理解できるような気がしてきた。
「私、秋が一番好きかも」
「たしかに、景色綺麗だよね。あと食べ物も美味しいし」
「そうだね、あと……ゆうくんと付き合い出した季節だから」
「なっ……それもそうだね」
結花は周りにいる人のことも意に介さず、俺の顔を微笑みながら見て大胆な発言をする。
この美少女と付き合ってんのかこいつ……!みたいな他の学校の同じく修学旅行に来ているやつの視線が痛い。が、クラスメイトの殺意よりかは怨念が薄いので耐えきれる。
俺は、京都の町を眺める結花の横顔をカメラに収める。カメラに気付いて、結花はこっちに柔らかな笑顔を向けてくれる。
「結花、可愛すぎる……。あとあの表情を引き出せる一条くんも凄い」
「悔しいけど、そうね」
良い表情を引き出せるとか、俺ってプロカメラマンの適性あるかも。
「私も、ゆうくんの写真撮ろうか?」
「いやー、俺のこと撮っても絵にならないし」
「そんなことないよ。ゆうくんとの思い出、残させて?」
結花は至近距離で俺のことを見上げて言う。
こんな感じの俺たちの様子を、天野さんと橘さんがスマホで撮っている。
その写真、あとで俺に送ってね? 送ってくれるなら全然撮ってもらって構わないから。
満足行くまで俺たちは秋の景色を楽しんだ。
あとは本堂の裏側から下っていくだけか。
歩いて下っていくと、右手になにやらお堂とせせらぎが見えてきた。
音羽の滝と言うらしい。そこから流れてくる清水ってことで清水寺という名前らしい。初めて知ったなあ。
清水の流れは3つに分かれている。
「ご利益は右端が長寿、真ん中が恋愛、左端が学業らしいよ」
天野さんが案内を見ながら言う。
「あとは、願いは1つだけで、1口で飲みきらないといけないみたいよ」
天野さんの説明に橘さんが付け加えてくれる。
「じゃあ、俺飲んでみようかな」
そう言って柄杓を取り、当然のごとく真ん中の清水を注ぐ。
「え、学業とか選ばないの? てっきりそうするかと。鈍感ボーイだし」
「いや、勉強は努力したらどうにかなるかなーって」
「格好いいこと言ってますねえ」
「まあね」
天野さんも最近少し俺に厳しくないか? いや、このからかいスタイルがデフォルトか。
続いて、結花が俺から受け取った柄杓に真ん中の流れから水を取る。ん? これって間接キスなんだよなあ。
まあ何回かしたことあるから今さらそこまで意識することでもないか。
そう思っても、ちょっとは意識してしまう。
俺の隣に立って、ごくんと喉を鳴らして清水を飲み干す結花をぼーっと眺めてしまっていた。
橘さんが急いで柄杓を手に取ったのを見て、慌てて視線をそらしたけど。
天野さんと橘さんもそれぞれ柄杓を持って、俺たちと同じように真ん中から水を取る。
ここ、あの彼女募集中イケメンに教えてあげたほうが良いかな。あとでなんか送っておこう。
「もう行ったぞ?」って返ってきそうだが。
「じゃあ八つ橋食べに行こうか?」
「やった!」
橘さんは小さくガッツポーズをする。もう隠す気ないだろ……。
俺たちは橘さんを先頭に坂を下り始める。
「ここでもお願いしたから、願い事……叶いそうだね、ゆうくん」
「うん!」
俺たちはどんどん先に進んでいく2人の後ろで、手を繋いで坂道を歩いた。時折木枯らしが吹いても、寒さは感じないほど温もりを感じた。
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