修学旅行1日目③結花と京都の夜景
俺は結花からの誘いを受けて、夕食を食べ終えてホテルのロビーまで降りた。
同室の、クラスの男子にはめちゃくちゃ怪しまれたが。まあ適当にごまかしておいた。あとでどうなるかは知らない。
ロビーでは、高級そうなふかふかの椅子に結花がちょこんと座って待っていた。その姿を認めると、俺は結花のもとへ駆け寄る。
「ごめん、待った?」
「私もちょっと前に来たばっかりだから、大丈夫だよ」
「なら良かった」
俺はほっとする。これでも急いで来たからね。待たせてたら、俺を怪しいと判断して引き止めようとした同室組のせいと言ってもいい。
「そういや、この時間って自由時間だっけ?」
「まあ、しおりには予定書かれてなかったし、いいかなって」
ルールのギリギリをかいくぐってきてるみたいだ。確かに何にも書かれてはなかったけど……。まあ、消灯前に部屋戻ったら大丈夫か。
「結花がそんなこと言うの、ちょっと意外だな」
「そう?」
「うん、前もっと真面目だったような……」
「そうだね……ゆうくんと過ごし始めて、ちょっと悪い子になってしまったかも」
結花は考えるような仕草をして真面目にそう言う。
……ってことは俺のせいだよな。
「え、それはごめん」
「あはは、冗談だよ! そうそう、一緒に展望室に行きたかったんだー」
「上にあるタワーの?」
「うん。じゃあ一応先生に見つからないように行こう?」
俺は結花に連れられて、なるべく忍び足で展望室に上がることができるエレベーターを目指す。
生徒は入るな、って言われてたエリアなんだよなあ。時間どうこう以前に規則破りすぎる。
「今日はお疲れ様でしたー」
「わはは、まだ1日目ですし、体力は有り余ってますよ。また明日もよろしくお願いします」
……やば。会議を終えたばかりの先生たちの声が聞こえてきた。
「……結花」
俺は前を歩く結花の手をぱっと掴むと、声の主たちが近づいて来る前にさっと隠れる。
ちょうど廊下からは死角になるところに、息を殺して隠れる。隠れられそうな隙間を見つけたので、そこに身を隠した。
足音がだんだん遠ざかっていくのが聞こえて、俺たちはほっと胸をなでおろす。
「ドキドキしたね」
「うん」
いたずらっぽく微笑む結花に、さっきまでのスリルよりも、今密着してることのほうがドキドキするんだけど、って言いそうになった。
ホテルの上にある京都タワーの展望室までやってきた。20時30分まで入場可能だったから、ギリギリセーフ。
「おー……綺麗だね」
「うん」
眼下には夜の京都の街並みが広がっている。
明かりは東京より少ないと思うけれど、結花の家で見た夜景と変わらないぐらい綺麗だと感じる。
しばらくの間、京都の暖かな夜の光を言葉を交わすことなくじっくりと眺めた。
「……ゆうくんと2人で過ごす時間が欲しかったから、こうやって誘ったんだよ?」
「そっか。……それは、嬉しい」
正直俺はこの修学旅行中は結花と2人きりで過ごすのは厳しいかな、と思っていた。班別研修ではまだチャンスありそうだけど、橘さんは2人きりになるチャンスくれそうにないし。
だから、こうやって初日から2人きりで過ごせたのは本当に嬉しい。
「修学旅行はまだ始まったばかりだけど、残りも楽しもう」
「うん、そうだね」
胸に温かな気持ちがあふれたのを感じた。これからの日程が楽しみだ。
時間ぎりぎりまで展望台で過ごしたあと、俺たちはエレベーターでそれぞれの階に降りて別れた。結花が名残惜しそうに手を振るので、ついて行きかけた。あぶねえ。
そして俺は部屋の扉を開ける。するとそこには枕を持った男どもが貼り付けたような笑顔で立っていた。今にも枕投げつけてきそう。
「一ノ瀬さんと会ってきたんだろ?」
「えっ……いやー、チガウヨー?」
俺は目をそらしながら慌てて言う。え……どうしてバレてるんだ? 俺なにもヒントになるようなもの出してないぞ?
「ダウト。ちょっと笑顔なの、隠しきれてないぞ?」
いきなり彼らの笑顔が消えた。目のハイライトまで消えてないか? RPGで敵と遭遇したときの効果音が聞こえるような気がした。
「俺らとも楽しもうぜ?」
「……拒否権は?」
「ない」
即答されてしまった。 俺、お風呂にゆっくり浸かりたい気分だったんですけど。どうしてくれんの。
彼らの目は光を取り戻して、ギラギラ光っている。おぅ……。こっちでは温かな気持ちは生まれないけど、友情が育めそう(?)だ。
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