文化祭の終わりとお願い
カジノコーナーを後にして、俺たちは校内を歩き回る。
流石は私立高校。豪華な飾り付けや賑やかな音楽とか、お祭りムードが凄い。
俺たちは生徒有志製作の映画を一緒に観たり、演劇を鑑賞したりした。
演劇では、橘さんがわりと重要な役をやっていて、「たしかにあの人、日頃から演技上手いもんなー」と結花に言ってみた。
そしたら、「え、まあ、部活結構頑張ってるみたいだからねー」ってきょとんとした顔で返された。
そっかあ、結花は気付いてないんだったな。
このへんであの人の話はやめておこう。変なこと口走ったら俺の命はない。
演劇を観終えて、また出店のあたりをぷらぷら歩く。
「もうどこも片付けしてるかー」
「あ、あそこは開いてるよ!」
結花がチュロスの出店を指差す。たしかに最後のデザートはいいな。
チュロスを2人分買って、ベンチに座る。
「これにて、文久祭の全日程を終了します」
ちょうど文化祭の終わりを告げるアナウンスが響いた。
もうすっかり夕方になって、西の空はオレンジに染まっていた。
「今年も楽しかったね」
「うん、そうだね」
帰り道で、俺たちは顔を見合わせて確かめあうように頷く。
「ところで、ゆうくんのお願いは決まった?」
「まあ、一応」
「じゃあ、聞いてもいい?」
「おう……」
俺はいきなり恥ずかしくなってきて、なんとも歯切れの悪い返しをする。
結花は期待のこもった眼差しを俺に向けて、俺が口を開くのを待っている。
「俺のお願いは……その、恋人繋ぎ、してくれない?」
「え……?」
結花は俺のお願いが予想外だったのか、驚いたような反応をした後、優しく笑う。
「えへへ、私もちょっとしてみたかったんだ。でも、ゆうくんから言ってくるのはちょっと意外だったかな」
「そ、そう……?」
「うん!」
そう言うと結花は、手を俺の方に伸ばす。
結花の白くて、細い綺麗な手にそっと触れて、お互いの指を絡ませていく。もぞもぞするというかなんというか……。
いけないことしてるような気分になりかける。
(結花の手、やわらかっ……!?)
今までに手を繋いだことはあるのに、なぜか、初めて手を繋いだかのような感想しか出てこない。
「ドキドキ……するね?」
「うん」
距離も肩が触れあいそうなくらいにまで縮まってて、そのことがさらに俺の心拍を早くする。
結花は俺の手の中で、指をにぎにぎ動かす。よりお互いの肌が密着する。体温も伝わりそうなくらいだ。
「……これから、学校の行き帰りもこれがいいな」
「え、ま、俺が提案したけど……ちょっと恥ずかしい」
「私も、恥ずかしいけど……こうやってしてると、心が暖まるっていうか」
「……まあ、それは俺も思う」
しばらく恋人繋ぎのまま、帰り道を歩く。なんとなく恥ずかしく感じるのも、この時間を大事にしたいのもあって2人ともいつもより口数が減る。夕日がそんな俺たちのことを鮮やかに照らしている。
「……さっきよりかは、恥ずかしくなくなったかも」
「なら、良かった」
少しだけ慣れてくると、結花の手の温もりが俺の体中を優しく暖めてくれてるような気がした。
「……ずっとこうしてたい」
結花がぽつりと呟く。
「どこか寄って行こうか」
「……うん」
俺も、結花の手を離したくないと思って、行く当ては特にないけれど、どこかに寄って帰ることにした。
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