夏休み明け
目覚まし時計の音で、俺はゆっくり目を開ける。
ついに2学期がやってきてしまったか……。憂鬱な気分でスマホを眺める。
「今日、朝ごはん作ろっか?」
結花からメッセージが来ていた。送られてきたのは今さっきか。俺はさっと布団から起き、椅子に座って返信を送る。
「いいの?」
「うん、早起きして、準備ももう終わっちゃったから」
「じゃあお願いします!」
夏休み明けの学校に通わなければならないことに対するマイナスな感情は、俺の脳内からすっかり消え去っていた。
「おはよ、ゆうくん」
「おー、おはよう!」
一人暮らしをして、「おはよう」って言ってくれる存在がどれだけ有難いか気付けた。もう半同棲生活未満の暮らしには戻れない自信がある。
「何食べたい?」
結花はさっそく俺の朝食を準備してくれる。
「ハムエッグ作ってもらってもいい?」
「いいよー」
そう言うと、結花は冷蔵庫からハムを取り出す。良かった、冷蔵庫の中にあって。
俺はトースターにパンをセットする。
「いただきます!」
制服姿の結花が俺の朝食を笑顔で見守る。
「どう?」
「ん……美味しい」
ハムエッグをパンに挟んで食べるの、美味しいな。
俺もハムエッグぐらいは作れるよ?作れるんだけどさ……作ろうという気にならないんだよなあ。
そんなだから料理できないんだよね。いつも結花に頼ってしまう。
「また頼んでもいい?」
「うん! ゆうくんから頼まれたら、いつでも行くよ?」
そう言うと、結花は俺をダメにしそうな微笑みを見せる。
このまま結花に頼り続けそうだな、俺。いつか「自分でやってみて」って言われたらやべー。ほんといつまでもこのままじゃダメだ。ずっとそう言ってる気がするが。
朝食を食べて、俺たちは一緒に登校した。
学校に着いて、教室の黒板を眺める。始業式があってから……ホームルーム2時間か。長い。
「今日テストないんだね」
「うん、明日と明後日だよ? 予定知らないなら、今回は勝っちゃうかもねー?」
「たしかに、あんまり勉強してねえ……」
今さら夏休みに勉強をしてこなかったことに気が付いた。ま、結花と色々行けたから後悔はないけど。
「今日のホームルームって何するの?」
「文化祭の準備だったよ」
「あ、そう言えばもうすぐだったね」
「2学期は修学旅行もあるから、楽しみなことが一杯あるね」
結花は声を弾ませて言う。
そうか、修学旅行もあるのか。たしか行き先は……京都だったかな。初めて行くかも。
中学のときは、真冬にちょうど寒波が来ていて極寒の長野に行ってスキーしたような。それ、略して修行だよな。略さなくても修行だった。
「修学旅行も、一緒に過ごせたらいいな」
俺の制服の袖をくいくいっと引っ張りながら、結花がぼそっと言う。結花が見せた少し意外な表情をいじらしく感じた。
「そうだね」
つい頬が緩んでしまいそうになって、なんとか普通の表情を取り繕おうとする。
そんな時に、始業のチャイムが鳴る。
くっ……タイミング悪い。
「じゃあ今から、文化祭について話し合ってもらうぞー」
担任がそう告げる。もうホームルームの時間か。
「あまり時間がないから、さっさと決めてくれー」
そう言って担任はどこかへ行ってしまった。あの……? 生徒主体ってイコール丸投げでは?
「何か案ありますか?」
学級委員が皆に問いかける。周りの顔を見合わせるクラスメイトを見て、これは長引きそうだな、と俺は思う。
「そうですね……焼きそばと、フライトポテトをセットで出してみてはどうでしょうか。調理も比較的簡単ですし、作るのも食べるのも楽しめそうかなと」
結花は手を挙げてから言う。辺りから「一ノ瀬さん、やっぱり良い意見出すよねー」みたいな感嘆の声が聞こえてきた。
俺も、ともすれば今日は何の成果も得られないのではないのかと思っていた中で自らの意見をはっきり言う結花に尊敬の眼差しを向ける。
結花は俺の視線に気付いて、少し口角を上げて見せる。
その可愛さ、不意打ちすぎる……。
やっぱり結花にはまだまだ敵わないと思った。
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