翔琉による暴露
「優希、色々聞きたいってよ?」
「まあ、別に話されてダメなことはないと思うが……」
結花は期待のこもった眼差しを俺たちに向けてくる。
そして翔琉も、なにやらニヤついて俺の方を見てくる。その表情を見るとちょっと不安になるな。なにか言われてまずいことあったっけ……。
「じゃあ色々話すぞ?」
「お、おう……」
つい曖昧な返事をしてしまう。それを聞いて、翔琉の目がぎらっと光ったような気がした。
「まずは……今年の春あたりの話で」
俺は固唾を飲む。翔琉から何が語られるんだろうか。
「優希が後輩に絡まれてて、一ノ瀬さんとあんまり話せたりしてなかった時に、彼はずっと俺にメッセージで相談してきました」
「うっ……そ、それは……」
なんで覚えてんだよ!
俺は翔琉の方を見る。しかし、翔琉はわざと俺と目を合わせないようにしている。
「なんて送られてきたんですか?」
結花もそんなに食いつかないで……。
「『最近話せてなくて辛い』とか『俺、なんかやらかしたかな?』とかです。鈍感ですよねー、優希は」
「そうですね……ほんとに鈍感だと思います!」
恥ずかしいメッセージの内容を公開されてから、ジト目を2人に向けられるのはかなりきついんだよ? 精神的に。俺が鈍感なのは認めるから許して。
「あとはー、夏休みに楽しそうなメッセージ送ってきたりとかですね」
「そうなんですね!」
結花は興味津々って感じで、翔琉の話を聞いている。
まあ、盛り上がってるんなら良かったよ? 俺は居たたまれないんだけど、非常に。
翔琉による暴露はその後30分以上も続いた。内容は俺が惚気けてくるとか、やっぱり俺が鈍感だとか。
そんなに鈍いのか……?
「今日はありがとうございました! これからも応援してます!」
「? はい!」
帰り際に、翔琉は握手会にやってきたオタクみたいなことを言う。結花は一瞬クエスチョンマークが浮かんでるような表情をしたけど、すぐにパッと笑顔になって返す。対応力も女神級。
俺もじゃあな、と言って翔琉の家を後にする。
「ゆうくんの事、前よりももっと知れた気がするなー」
「うん……」
俺が複雑な心境で返すと、結花は俺のすぐとなりに近づいてくる。
「ゆうくんはやっぱり可愛いね」
「なっ」
結花は嬉しそうに、鼻歌でも歌い出しそうな軽い足取りで歩き始める。
俺はついさっきの暴露によって尊厳みたいな、重要な何かを失ってしまった気がしたけど、結花が幸せならいいかと思って結花の横に並んだ。
「また一緒に仕事できたらいいなあ」
結花を家の下まで送り届けたときに、結花が遠くを眺めて呟く。
「そうだね、次は俺も料理出せたらいいな」
「うん! ……あ、秋の文化祭で模擬店とかあるから、そこで一緒にやろう? 」
「たしかに、それいいね」
そう言えば夏休みが終われば秋だなあ。秋に文化祭あるんだった。
8月後半は例年通りだとまだまだ暑いはずだけど、たった今涼しい風が頬を撫でたのを感じた。
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