結花とバイトでフラグ回収
夏休み最後の週末。俺たちはまた家事代行のバイトをするため、依頼人の家の前までやってきていた。
「本日はよろしくお願いします」
インターホン越しに呼び掛ける。
「あ、お願いしまーす」
また聞き慣れた声がしたような……。
この声は間違いなくあいつです。
例の依頼人が扉を開ける。
やっぱりな。あのラブコメ大好きオタクイケメン、翔琉でしたね。まあ知り合いの方がやりやすいからいいか。
前回、姫宮の家を引き当ててしまったときと同じように、俺は掃除を、結花は台所で料理を、という風に分担する。
俺はいつになったら台所に入れるんだろうか。俺って飲食店の新人みたい!
俺は翔琉が見守る中、掃除を進める。
「なんでこう知り合いばっかり引き当てるんだろうな」
たしかに、俺たちの高校は進学校だと思うし、付属高校だから大学までエスカレーターで行けるので、地方からやってきて一人暮らしして通う価値はあるけども。
……それにしても確率おかしいだろ! サイコロを6回振ったとき~みたいな数学の問題かよ。
「高校生はそんな家事能力ないだろ?」
「まあ、たしかに。俺もないから人のこと言えねえ……」
俺はまあまあ整理整頓されている翔琉の部屋の床を拭いていると、あることに気づいた。
「てか、翔琉の部屋結構片付いてないか? もっとグッズとかあると思ってたんだけど」
「あー、それは向こうの部屋にあるんだ。あの部屋、グッズ部屋なんだよな」
「そういうことね」
流石にグッズがないことはないよね、とは思っていたけど。一部屋埋め尽くしちゃってる感じか。
「お昼ご飯出来たので、召し上がってください」
「ありがとうございます!」
久しぶりに外行き結花を見た気がする。やっぱり言葉や所作から育ちの良さが伺える。
翔琉と結花って、あんまり喋ったことなさそうだな。
翔琉は遠くから俺たちを見守ってる、というか推してる感じあるし。……なに言ってんだろ。
「いただきます!」
翔琉は具だくさんの冷やし中華をすする。
「美味しいです!」
「ふふっ、それは良かったです」
結花はにこっと柔らかく微笑む。俺たちはその様子に見とれて動きが止まってた。特に俺が。
「なあ優希、なんでこんな天使捕まえられたの? 空飛んでたんじゃないの?」
「だよな、天使だよほんと」
俺たちは互いに顔を見合せて、うんうんと頷く。
結花には聞こえてなかったみたいで、きょとんとしていた。
「あ、そうです!」
結花が何かを思い出したように両手を合わせる。
「成瀬さんって、優希くんと仲良いんですよね?」
「お、うん」
一瞬成瀬って誰?とか思ったのは内緒で。翔琉のことはずっと下の名前で呼んでたからね!
「優希くんの話聞きたいです!」
なんというリクエストをするんですか、結花さん。こないだも姫宮と俺の話してたよね? そういう条件なの? なら俺の知り合いばっかり引き当てるのも納得だけど。
「おー、俺が知っている範囲ならなんでも!……クールそうに見える美少女が実はデレデレとか素晴らしい、やはり推しカプだわ」
最後はぎりぎり結花には聞こえてないはず。
でも、こいつ絶対普段の様子から周りにヲタバレしてんな……。
俺はしらーっと翔琉の方を見る。もはや隠す気ないだろ。
「色々聞きたいです!」
結花はノリノリなようで、少し前のめりになっている。そんなに俺のこと聞いてるの見てると、なんか照れるんだけど……。
これから何の話がされるのか、特に不味いことはないとは思うがちょっとヒヤヒヤする。
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