初めての家事代行依頼
「優希、気をつけてね」
「分かってるよ、ゴールデンウィークで帰ってくるからそう寂しがらないでよ」
(いい年して中3にそんなに全力で手振るなよ……) と思いながらいつもより少し長い間、親に手を振った。
俺は都内の名門、文久大学附属高校に通うため、1人暮らしを始めることにしたのだ。
電車で実家から2時間、新居にたどり着いた。
築5年で駅近というなかなかの良物件だ。ただしあまり広くない。
「とりあえず送っておいた荷物を並べるか……」
テキトーに荷物たちを並べていく。
あまり時間をかけずに生活できる空間になった。
まあまあ疲れたが。
明日から高校生活が始まる。
高校の講堂に入った。歴史を感じる建物だなと思いながら自分の席に進む。運の悪いことに前の方だった。
(これじゃ寝れないじゃん……)
結局、うとうとしかけていたところで新入生代表の挨拶が始まった。普通に前の席でも寝れてるじゃん。
「あの子、まあまあ可愛くね?」
あちこちでそんな声があがる。
(まあまあじゃねぇだろ、めちゃくちゃ可愛いじゃん!?)
黒髪ロングでザ・清楚系って感じ。
ほっそりとしてて、立ち姿から上品さが溢れ出てる。
ど真ん中、ストライクっす。
可愛いと格好いいをどっちも持ってて、さっき出てきたひょろひょろな生徒会長よりも会長してそう。
「……新入生代表、1年1組一ノ瀬結花」
(いや、同じクラスじゃん!?)
とりあえずこれで俺のクラス1位ルートは遠ざかった。
高校生活が始まって2週間が過ぎた。
ここでようやく俺は一人暮らしをする上で重大な問題に気付いてしまった。
俺は家事が絶望的に出来ないということに。
レシピ通りに作っても、ヒトが食べられるモノが出来ない。というわけで毎日カップラーメン生活だ。
「これじゃまずいなあ……」
そろそろ飽きてきたカップラーメンを食べ終えた後、スマホを眺める。
「うぉい」
普段は目に留まらないはずの広告で、見つけてしまった。
家事代行というダメ人間救済システムを。
これは申し込むしかねぇぇぇ!!
ついに家事代行の予定日が来た。
代行の間は家にいなくても良いらしいが、流石に申し訳ないし、何よりどういう風に家事をしていくのか知りたい。
「もっと親の手伝いしとけば良かったなあ」
ま、今さらなんだけど。
一月分のお小遣いの8割ぐらいが家事代行に吸い取られる
早く家事代行が必要ないぐらいに成長しないと。
そうこうしているうちに、インターホンが鳴る。
「はーい」
玄関の鍵を急いで開けに行く。
「……え?」
なんか玄関前に一ノ瀬さんが立ってるんだけど。
こんな近くで初めて顔見たわ。
小顔で、透明感のある肌に、吸い込まれるような茶色っぽい大きな瞳。
いつまでも眺めてられる自信がある。
で、今の状況はドユコトナノ???
「家事代行に参りました、一条さん、というか一条くんのお宅で間違いないですか?」
「……ウン、あ、はい」
やっと頭が回りはじめた。
俺は家事代行を頼んだんだった。
「では、本日は3時間コースということですが、何からやっていきましょうか、?」
「んー、じゃあ、お昼ごはん作ってもらってもいい?」
「分かりました」
というわけで、一ノ瀬さんはキッチンに、俺はリビングの片付けに向かう。
(いや、初めてこんなに喋ったんだが!?
てかなんでバイトしてるんだ、、?ウチの高校バイト禁止じゃなかったっけ、、?バレたらヤバくないか?)
生徒手帳をまじまじと眺めたことはないが、たしかバイト禁止では?と思う。
「どうぞ」
「美味しそう……!」
ご飯と味噌汁に鮭の塩焼き、お手本のような和食だ。
「いただきます!!」
美味しすぎる。HPとMPは全回復した!
「一ノ瀬さんはお昼ご飯食べないの?」
「ええ、先に済ませておいたので」
流石に美少女とお昼ご飯というオプションはついてなかった。
「ごちそうさまでした!!
めちゃくちゃ美味しかったです!
久しぶりに栄養補給できました!!」
「それは良かったです」
そう言って微笑んでくれる、いや、天使か?
勉強も家事も出来て可愛いとかハイスペックすぎでしょ、、
そして掃除もやってもらう。
動きやすいように結んだ流れるような黒髪に見とれてしまって俺は全く手が動かなかった。
ナニヤッテンダ。
そんで終了の時間が来る。
「じゃあ、これで終わらせてもらいます。
同級生からお金を貰うのは少し気まずいので、今日は体験ってことで無料でも、、」
「いや、こんなに手伝ってもらったのに申し訳ないよ」
そう言って3000円を渡す。
(てか一ノ瀬さんに認知されてた、、推しに認知されたときのオタの気持ちが分かったよ、、!)
「あ、1個だけ聞いてもいい?」
「はい、何でしょう?」
「仕事してもらって聞くのもアレだけど、ウチの高校ってバイトOKだっけ、?」
「……」
(あ、やべ。ナニ聞いてんだ俺は。)
圧倒的ノーデリカシーを見せつけてしまう。
「秘密にしてもらっててもいいですか?」
「いや、誰にも言わないよ?」
「……心配なので一応緊急連絡用の連絡先教えてもらってもいいですか?」
「いや、信用されてない!?」
とか言いつつトークアプリの交換をする。
「ご飯ならいつでも作りますので、本当に秘密ですよ?」
「うん、言わないから安心して?」
というわけで一ノ瀬さんを見送る。
やっぱりそんなに信用されてない。
でもなぜか連絡先をGETするという超特大サービスがついてきた。
そーいや、席隣じゃないか、、?
俺の高校生活、どうなっていくんだ???
次の日、クラスに入ると友人たちに声をかけられた。
「なんかいつもより顔色良くね?」
「え、そう?
やっぱり美味しいもの食べたからかなー」
そう言った途端、なんか視線を感じる。
(俺は契約違反はしないぜ、、)
「デリバリーってめっちゃいいな」
と言っておく。
「彼女の弁当じゃないのかよ」
といじられる。
(いや、それ以上の存在にお昼ご飯作って貰ったけどな!?)
ただ家事代行をしてもらっただけなのに優越感に浸っている俺。
客観的に見たらかなりイタイ。
「弁当作ってくれる彼女欲しいなあ」
ついつい本音が漏れる。
「まだ俺らと非リアやってようぜ」
「抜け駆けすんなよ?」
「いや、1番にリア充になるのは俺だ」
そんな風に男子どもの日常会話を繰り広げていて、一ノ瀬さんがこっちを見ていることに、もちろん気付かなかった。
昼休み。
彼女の愛妻弁当がない俺は、学食に向かう。
食堂は講堂とは正反対に、真新しい建物だ。
なんでも最近改築工事があったらしい。
たまたま入口で会った友人の翔琉と一緒にラーメンを頼む。ここのラーメンは美味い。そして何より安い。
カップラーメンと学食のラーメンで、毎日ラーメン漬けだ。
こんなんじゃだめだ……。
いつまで経っても一ノ瀬さんに家事代行を頼みっぱなしなのは申し訳ないしな……。
「一ノ瀬さんって可愛いけど、男子と話してるの見たことないよなー」
「!?」
(いや、タイミング!?)
「いきなりどしたの?」
無理矢理誤魔化す。たぶん気付かれてない。あぶねー。
「いや、優希、彼女欲しいなら狙えば?って思った」
「きびしーだろ」
一ノ瀬さんからはどこか男子を寄せ付けようとしないオーラを感じる。
「そうか?優希そこそこ顔良いし、勉強も出来るし、ふつーに優しいじゃん、」
「翔琉ってもしかして俺のファン?
サインいる?」
「いや、いらんけど」
「いらんのかい」
俺たちはどこかの芸人みたいなやりとりをする。
「てか、一ノ瀬さんて昼休み何してんの?」
「いつも勉強してるよ」
「なんで知ってんの?」
「いや、隣なんで」
「羨ましい、羨ましいぜ……」
翔琉の、男子諸君の総意を表現したような呟きが耳に入る。
「、、すごい努力家だよな、一ノ瀬さん」
勉強もほどほどで、家事はダメダメな俺とは違いすぎる。
俺も成長しないと。
「小説家になろう」初投稿です!
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