父と子の亀裂
「こんなものでいいか」
陸人から話を受けた翌週、取材旅行に必要なものを買い揃え、一通りキャリーバッグに詰め終えた後、俺は何となく達成感を感じ、ゆっくりと息を吐き呟いた。
「にしてもこれはひどいな、、」
目の前の色がかすんだ赤色のキャリーバックを見下ろし、ふと口に出した。
いくら旅行が久々だからといって、家にある旅行用のカバンが色褪せた小学生でも持てるサイズのバックしかないとは笑えない。
しかし、それにしても腹が減った。慣れない旅行作業なんてしたからかもしれない。
「飯でも買いに行くか、、、」
そうつぶやき、俺は階段を降り1階のリビングに向かった。
リビングは、平凡な作りだが、その奥に一般的な日常風景に似合わない、厳重なつくりの金庫があった。
俺はその金庫に決められたコードを慣れた手つきで入力する。コードを入力し終わると重い音を立てて金庫が開く。その中には、札束が詰め込まれていた。そう、父親はたまに帰ってくるとき、お小遣いと称してしばらく帰ってこなくても困らない量の金額を入れていく。実の息子になにかかける声でも見つからないのかというツッコミも心に浮かばなくなってきていた。父親がこうなったのも全て母親が死んでからだった。
「友里恵!!友里恵!!しっかりしろ!!」
目をつぶると病室での記憶が鮮明に思い返される。苦しそうな母と悲痛な叫びをあげる父、そしてその横で何もできずにただ立ちすくんでいる自分。
「おいおい、今更何を考えているんだ俺は、、、」
もう15年前のことなのに、未だにあの金庫を見ると思い返される。
もしあの時、母さんが死んでなかったら、、、一瞬そう思ったがすぐさま首を横にふり思考を中断する。その後、俺は金庫から手に収まる分だけの札束をつかみすぐさま二階に向かった。そして、強引にキャリーバックに札束を詰め込み、余計なことを考える余裕もなく1日を終えた。