『ためいき』『聞き流す』『火』
ためいき
安岡 憙弘
人でごったがえしたホテルのフロアにシモンはいた。彼の座っているテーブルの前のイスをとりかこむようにして彼とはいかにも相性の悪そうな客人たちがそれぞれにくつろいでいた。
シモンはかなり居心地が良くなかったが 再び足の上にひろげた本に目をおとし読みつづけたのだった。
聞き流す
わが友のガスパーはもっとも重要な情報にだけ鋭くかつ繊細でその他の細々としたいらないものにはまったくず太く聞き流すというたいへん便利な耳を持っていた。
火
消防自動車が一台やってきて炎え盛るビルの業火をすべて鎮火してしまった。わたしの心のバランスは完全に保たれた。