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【17】似ている







 父は、隆郷のことは自室に呼び止めたそうな素振りを見せたが、隆郷はそれを無視して彼女とともに退出した。


 央姫は人目があるうちは礼儀正しく無言を貫いていたが、自室へ入って女房が下がっていくなり、深く腰をおろして脇息へともたれかかって息をついた。


「……はあ〜〜〜。疲れました……」


 その様子にまるで深刻な素振りがなかったので、隆郷はとっさに反応に困った。


 今しがた父が彼女に言ったことは、彼女にとっては深い負担になって致し方ないようなことの気がするが。


「大殿さまもお人が悪いこと。疲れている時に限って本音でも漏らすのではないかと。まったく、よくよく人を見ておられる方です」


 央姫の様子はあっけらかんとしたものだった。


 父のやり方は、確かに人に揺さぶりをかけることに慣れたいつもの手法だ。しかしまるで彼女を余所者であると言わんばかりのその態度には、知れずと嫌悪感が募る。


 ……まあ、父はそうした点も含めて、隆郷をまだまだ「甘い」と言うのだろう。余所からもらった妻を扱いきれぬ若造と。


「悪かった。京に着いたばかりなのに、気苦労を追わせて」


 それ自体は隆郷も自覚するところだから、父のやり方を非難し切ることもできずに、結果として謝罪すら中途半端なものになる。


 父がわざわざ彼女を呼び付けて出す話題が楽しい用向きではないことは想像がついたので、隆郷はできれば父と対峙するよりも先に央姫と話をしたかった。しかし、父はわざわざ彼女の到着の日を見計らって間を置かせなかった。


 そして央姫もまた、あの父と対峙して、やや押されながらも決して一方的というわけでもなかった。


「旦那さまが一緒にいてくださって助かりました」


 なんていじらしいことを言ったかと思えば。


「大殿さまと阿茶さまに対して、こういうお話をしましたと、後でまた一から報告するのは手間でしたもの」


「……そうか」


 彼女は己の利用価値をよく理解しているし、立場に付け込むような真似をされても、舅とそれなりに渡り合うだけの胆力もある。


「何度も話すには少々疲れる話です。特に、妹に関することは」


 父は彼女を強かな女だと思っているだろう。事実、央姫は状況に応じて態度を変え、のらりくらりと自らの思うところを貫き通す。


 しかし一方で、身内に関することとなると途端に見せる情に脆い顔もまた、等身大の彼女の本心に違いなかった。


「遠からず、妹に会ってこようとは思います。けれど、気が重いことです。気軽に会って茶飲み話でもして、穏やかに再会を喜ぶような、そういう仲ではもうなくなってしまっているようですから」


 これまで彼女が、淀君をどちらかと言えば避けたがっているとは感じていたが、そうした反応からはむしろ妹にしか見せない特別な嫌悪や執着、愛憎入り混じる複雑な感情が見え隠れする。


「父に何を言われても、話したくないことがあれば話さなくていい」


 強く柳のように立っているかと思えば、容易に心の中の一番柔らかな部分を晒して憚らないようなちぐはぐさを見せる彼女に、隆郷は夫という立場でどう接するべきなのかを決めあぐねている。


「そういうわけにもいきませんでしょう。けれど、そうですね、大殿さまと直接話すよりかは、何かあれば旦那さまに話すようにいたします」


 しかし結局こちらが気を遣っても、彼女のほうがそうやって一枚上手なのだ。







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