あの日の遠回り
掌編小説です。ガールズラブを題材にしていますので、苦手な方はブラウザバックをお願い致します。
だるい授業を半分寝ながらやり過ごし、気が付けば教室は夕陽でいっぱいになっていた。
「明里、帰ろ」
教室の扉からぴょこっと顔を覗かせたのは、幼馴染みの月乃だった。家が道を挟んで向かい側なので、バイトのない日はよく二人で帰っている。
「ん、ちょっと待って」
散らかった机の上を急いで片付ける。片付けるといっても、シャーペンと教科書を鞄に詰め込むだけだ。
「お待たせ」
「今日は久しぶりに遠回りしようよ」
「いいね」
月乃の黒髪が嬉しそうに跳ねた。
校舎を出て、いつもは通らない道をゆっくり歩き出す。
今日はね、数学の時にさと、月乃が今日あったことを面白おかしく喋り出す。私が相づちや笑いで返していると、突然月乃が歩みを止めた。
後ろを振り返ると、月乃が真っ赤な顔をしてこちらを見上げていた。
「えっ、どうかした?」
「ねえ、怒らないでね?」
「悪いことしたの?」
「今からするの」
月乃はくるりと後ろを向き、なにかの準備を始める。数秒後にまたこちらに向き、私を見上げた。
「新しいリップ付けてみたの、どう?」
それのどこが悪いことなのだろう?疑問に思いながら月乃の唇を見る。
肌の白い月乃によく似合う、桜色のリップが唇を彩っている。
「かわいいと思うけど、それがどうかし――」
唇に、柔らかい物が押し当てられた。
ふわりと桜の香りがする。月乃の大きな瞳が、驚いて丸くなった私の目を映している。
「ね、悪いことでしょ?」
月乃の唇が離れ耳元で呟かれた。自分はキスをされたんだと理解したときには、月乃の姿は小さくなっていた。
ドクドクと心臓がうるさい。
緩む口元を隠しもせず、私は上機嫌にドラッグストアに足を向ける。
「同じリップ、買ってやろう」
それを付けてキスしてやろう。月乃の黒髪が跳ねるのが目に浮かんだ。
ありがとうございました。
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