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第十章 岸壁の上の要塞(相席)


 ルインさんが予想していた通り、街の宿屋は整理券を持って順番を待っている人々で混雑していた。ただ、これもルインさんの予想通り、日頃から混雑している状況が当たり前のことなのか、宿泊する部屋が空いていないわけではなかった。さすがに男女別れての2部屋というわけにはいかなかったが、4人で少し大きめの部屋を一つ確保することができた。


「ちなみに……その荷物はなんだ?」

 宿屋に入ってさっそくマリアさんに向かってルインさんは言う。その視線はマリアさんの両手を塞ぐ荷物に向けられていた。

 整理券を手に入れた後、宿を探す前にエイダ達と合流したのだが、その時から僕もずっと気になっていた。


「これは……ちょっとした服や小物です。これからハイダルシアとは気候も風土も違うアルセントに向かうんです。いつまでも厚着ではいられませんから」

「それは分かるけど、誰がその大荷物を持つんだ?」

 ルインさんの言う通り、すでに僕らのリュックや鞄は荷物で一杯である。ここにさらに目の前の荷物が増えるとなると、完全に容量オーバーである。


「大丈夫です。今ある荷物のほとんどは防寒着やセーターなどの冬服です。アルセントは気候的にもハイダルシアほど寒くはありませんから、いらない冬服は街の古着屋で買い取ってもらう予定です。そうすれば荷物も減って、少しですけどお金も稼ぐことができます」

「……なら、いいけど」

 マリアさんのしっかりとした買い物プランに、さすがのルインさんも納得して頷くしかないようだ。


「……ねぇ」

 二人の様子を見守っていたエイダが、僕の服を袖を引っ張る。


「どうしたの?」

「……お腹すいた」

 エイダがお腹をすかせるのもしょうがない。時間はお昼時なのだが、まだご飯を食べていなかった。


「そうだな。宿もとれたし飯でも食いにいくか」

 一旦、大量の荷物は宿の部屋の隅に置いておくとして、僕らは宿の近くにある食堂へと向かうことにした。時間的な理由もあってか食堂の中も人が溢れかえっていた。


「いらっしゃいませー。何名様?」

「4人です。空いてますか?」

 声をかけてきた店員さんに、マリアさんが聞き返す。


「うーん4名様ですよね。相席でもいいですか? それならすぐに座れます」

「どうします?」

「いいだろ。別に。リオンもエイダも?」

 僕とエイダが頷くのを確認すると、マリアさんは店員さんの元へ。しばらくして相席相手の了解も取れたのか、僕らは席へと案内された。


 人でごった返す店内、僕らが案内された席にはすでに相席相手である1組の男女が座って食事を楽しんでいた。年齢は20代後半といったところだろうか、肩を寄せ合って座る様子から、仲の良さが伝わってくるような気がしていた。


「こんなデカい街で相席になったのも何かの縁だ。名前を聞いていいかい?」

 席につき、注文が終わるのを見計らったように相席の男性が声をかけてきた。


「俺はルイン」

「僕はリオンです」

「私はマリアといいます。で、彼女が」

「……エイダ」

 と、僕らは簡単にそれぞれ自己紹介をした。


「うんうん。野郎二人にマリアちゃんとエイダちゃんね」

 何を真面目に聞いていたのだろうか。僕とルインさんの名前は最初から覚えるどころか、興味すらなかったようだ。


「しかしタイプの違う美女二人と旅しているなんて、ニクイね男子諸君。で、どっちがどっちの彼女なの? 恥ずかしがらないでおしえ、イテ」

 テーブル越しに体を乗り出していた男性の頭を、横から女性が慣れたようにはたく。


「コラ、余計な事聞かないの」

「チェ……面白かったのに」

「面白がらないの。ごめんなさいね。彼、だれかれ構わず話しかける物好きなの。一緒の席になった間だけ我慢してね」

 そう言うと女性はこれまた慣れたように小さくウインクをした。


「我慢ってなんだよ。おっとそうだ。俺達の自己紹介がまだだったな。俺はジェイド・スペクトル。そしてこちらは俺の愛しのマイワイフことエクセラだ。よろしくな」

 ジェイドさんに紹介されるとエクセラさんは可愛く手を振った。


「ワイフということは……お二人はご夫婦なんですか?」

 全員が思っていただろう疑問を、マリアさんが代表するように尋ねる。


「そうなるな。そうだ、聞いて驚くなよ」

 まだ何も聞いていないのに一人でジェイドさんは勝手に盛り上げっていく。

 エクセラさんがさっき言っていた我慢しての意味がなんとなく分かってきた気がした。


「夫婦は夫婦でも俺達実は、10日前に結婚したばかりの新婚夫婦なんだ。凄いだろ。凄くない? もっと驚けよ。つまらない奴らだな」

 こちらが何も言わなくても、沈黙を埋めるように、どんどん一人で話を進めていくジェイドさん。

 隣のエクセラさんは慣れたことなのか、何も言わずニコニコと見守っているだけだ……。

 偶然とはいえ、相席が奇妙な出会いを運んできたと実感せずにはいられなかった。それはきっと僕を含めた全員が思っていることだろう。


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