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第十章 岸壁の上の要塞(玄関)


 国境の街セイグラム、そこはハイダルシアとアルセントを結ぶ唯一の街。そのため行きかう人や物資、情報がすべて集まり、国境の街でありながら賑やかな繁華街を有する大きな街でもあった。


「賑やかな街ですね」

「そうだな。ハイダルシアからアルセントに向かうにはセイグラムを抜けるしかない。必然的に人が集まるんだろうな」

 ルインさんの言う通り、先程からすれ違う人々は行商人や旅人といった国境を通り抜けることを主としてこの街に滞在している人と、街に住み訪れる人を相手に商売を行う宿屋や料理屋、雑貨屋などの従業員と様々であった。


「エイダさん、一緒にお店を見に行きませんか?」

 エイダの手を握ると、目を輝かせたマリアさんが言う。

「……う、うん」

 少し押され気味な様子でエイダも頷く。

「では、さっそく」

「おい、マリア。あんまり買いすぎるなよ。お金もないんだから」

「分かってます。心配しないでください」

 そう言うとエイダの手を引っ張るように人ごみの間をするすると通り抜けていく。遠目で見ると仲の良い姉妹のようにも見える。賑やかな街に来たことで、久々にマリアさんの購買欲に火が点いてしまったようだ。


「本当に分かっているのか……やれやれ」

 半分諦めた様子のルインさんはそう言って頭をかきながら、街の奥へと歩を進め始めた。


「ルインさんはどうするんですか?」

 駆け足で追いつくと、隣を歩きながら尋ねてみた。


「俺は国境を超えるための整理券を貰いにいってくるよ。リレイドからハイダルシアに入った時と違って、ここでは整理券を先に貰っておいて、順番を待たないといけないんだ」

「整理券が配られるくらい……多いんですか?」

「多い。長い時には3日待たされることもあったとか。こればかりは運とタイミングだな」

「へー……僕も一緒に行っていいですか?」

「いいけど。そんな面白いことでもないぞ。ただ並んで券をもらうだけ」

「それでもいいんです。街の中も見て回れますし」

「リオンは物好きだな」

 ルインさんに付いてセイグラムの街の表通りを進んでいく。街の奥、つまりアルセントを囲む山脈の麓には山を貫くトンネルの入口がある。このトンネルの入口手前に設置されている要塞が街を統括する国境管理室であり、国境を通過するための整理券を配布している場所でもあった。

 要塞が近づいてくると、門の前に並ぶ人だかりも見えてくる。少なく見積もっても50人程はいるだろうか。整理券を貰うだけでも、これだけの人が並んでいるのだ。


「今回は少し待たされそうだな」

 同じように人だかりを見たルインさんが残念そうに言う。

 どうやらいつもよりも少し多い人数のようだ。


「早めに宿も取っておかないと、野宿になったりして」

「野宿ですか……」

 最悪の場合、僕は野宿でも問題ないけど……エイダやマリアさんを寒空の下で眠らせるわけには、せっかく治った風邪を再び拗らせてしまう恐れだってある。


「心配しすぎだよ。冗談だって。人がたくさん集まる街だ、宿だって有り余るくらいあるから心配するな」

「ルインさんが変なこと言うからですよ」

「悪い悪い」

「もー……うん? そういえばあっちの空いている建物はなんですか?」

 僕達が並ばされている要塞から少し離れた場所に、似たような要塞がもう一つ建てられている。要塞の先は山脈に繋がっているようで、まるでもう一つトンネルで抜ける道があるようにも思えた。


「リオンにしては察しがいいな。でも、あれは駄目だ」

「駄目……とは?」

「言ったろ。アルセントは貴族主義の国だって。リオンの想像通りあの要塞を抜けると、こっちの要塞と同じように国境のトンネルを抜けることができる。でもそれは選ばれた者だけが通り抜けることのできる特別なもの。俺達みたいなただの旅人には使用不可ってわけだ」

 なるほど、特別性……つまりアルセントの貴族だけが通り抜けることができるってことか。


「ほら、噂をすれば」

 ルインさんが指さす先、一台の馬車が少し離れた要塞に近づいていく。普通の馬車に比べて煌びやかな装飾が施されている馬車だ。ただ、薬師のロージェさんと一緒に乗せてもらった馬車に比べると、少し安っぽくも見えた。


「当たり前だろ。貴族の格の違いだ」

 何も言っていないのに、僕の考えていることを見切ったようにルインさんは言う。


「格ってことは。つまり、目の前にいる貴族よりも、ロージェさんの雇い主の方が貴族としては偉いってことですか?」

「そうなるな。馬車の装飾とはいえ、貴族同士の権威の争いの一つってわけだ。迂闊に豪華にして難癖をつけられるのも嫌だし。身分相応の装いってことだな」

「貴族も大変なんですね」

 優雅で偉そうにしているだけのイメージだったけど、貴族の世界は世界で、それなりに気苦労があるようだ。


 整理券を求めて僕らが並んでいる間に、貴族を乗せた馬車は悠々と国境の要塞を抜けていく。特権階級だけが許された権利。


 結局、僕らが整理券を手に入れることができたのはそれから数時間後のことであり、整理券に記載された整理番号から推測される待ち時間は約2日間であることが分かった。

 とにもかくにも一旦、宿屋に部屋を取ることになった。


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