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第十章 岸壁の上の要塞(王国)


「どうぞ、珈琲です」

「あ、ありがとうございます」

 マリアさんから受け取ったカップから珈琲の香ばしい香りと白い湯気が立ち上っていた。小さな木造の小屋の中、椅子変わりの丸太が四方を囲むようにして、中心で焚火の炎が燃え上がっている。僕らはもちろん丸太に腰掛けている。


 バーデンハイムの街を出発してから少し歩いた場所にある誰でも使える休憩小屋の一つ、しっかり休んでから出発したこともあり、病み上がりのエイダも疲れた様子はなく、僕自身にも疲労感はなかった為、素通りしていくつもりだったけど、ルインさん曰く、この小屋を過ぎた先から急に険しい道のりに変わるとのことで、少し早めの昼食を兼ねて、先を見据えた休息をとっていた。


「……おいしい」

 口の中に広がる珈琲の香りと風味に、思わず僕は呟いていた。

「ありがとうございます」

 聞こえていたようで、エイダの珈琲に真白なミルクを注ぎながらマリアさんは言う。ブラック派の僕やルインさんと違い、エイダやマリアさんは珈琲にミルクとシュガーを淹れて楽しんでいた。


「そういえばアルセントの話だったよな」

 腰掛けた丸太のヘコんだ部分に、珈琲の入ったカップを倒さないように置くと、ルインさんは思い出したように言う。

「……はい」

「アルセントは4大国の中で唯一、未だに王が主権を持つ君主制の国なんだ」

「君主制……?」

 両手で可愛らしくカップを持つエイダはそう言って首をかしげる。


「つまり王様の統治する国ってことだ。リオンの住んでいたリレイドの実質的トップは領主だろ?」

「……そうです」

 僕が住んでいたリレイドは民主主義制度で議会に所属する議員の中から領主が選ばれている。ただ、領主になったからといって絶対的な力を持てるわけではなく、詳しくは僕も知らないけど任期もあったはずである。


「アルセントの王様はその名の通り国をすべる王。王の考えがすべてにおいて優先され、絶対的な力と権力を兼ね揃えている。その下に御三家と言われる王に次ぐ力を持った3つの公爵家が王を支えるように存在し、さらに階級を明確に区切られた上流、中流、下流貴族や一般国民が決して越えられない階級の天井を支えるように存在している。ここまで聞いて分かる通り、アルセントという国は君主主義、貴族主義、階級主義を国の礎として、伝統と歴史を重んじる国なんだ。そしてもう一つ厄介なのが……」

 ここまで話すと、一度口の中を潤すようにカップに残った珈琲をグイっと飲み干す。


「アルセントは4大国の中で一番、教会への信仰心が強く、教会信者も多い国なんだ」

「……」

 教会信者が多い国……それはつまりエイダを狙う教会の闇の部分に遭遇する可能性が高いということだ。分かりやすく考えてみるとエルディーンの治めていたイーダストの街が、そのまま大きな国へと変わったようなものだろう。


「アルセントの内情と注意点はこんなところかな。あとは国土のことと騎士のことだけど、騎士については前にリオンも知っていたよな?」

「はい、でも知っているのは国を守護する警備隊が、アルセントでは騎士隊という名前だってことくらいです」

 リレイドには騎士隊はなく、警備隊がその名の通り街を警備する組織として活躍していた。


「そうだな。簡単にいえば名前が違うだけに思えるけど……アルセントの騎士隊は誰でもなれる者じゃない。選ばれた貴族の中の武芸に秀でた精鋭しかなることが許されていない組織だ。だからこそ国民からの信は厚く、子供達からは羨望の眼差しで見られることも少なくはないそうだ。そもそも4大国の中で一番国土が小さな国であるアルセントだからこんな騎士隊でもやってこれるんだろうな」

「どういうことですか?」

「選ばれた者しかなれない騎士が国を守るのに……国土が広かったら人手が足りないに決まっているだろ」

「あ、なるほど。そういうことですか」

「国土すべてが広大な山脈に囲まれ、それ自体が強靭な城壁と化しているアルセントだからこそ、成り立っているんだろうな。唯一の入口は人工的に作られたトンネルだけ。山を突き抜けるトンネルを越えなければアルセントの国には入れない。各地にある国交の為のトンネルには要塞と化した関所が設けられ、選ばれた騎士達が国土への不法侵入を許さない。万が一不法に潜り込んだ奴は、騎士隊に……ここまで言えば想像はつくだろ?」

「え……あ、はい」

 きっと想像したくない光景のことだろう。アルセントの話を聞きたかっただけなのに……なんだか怖い話を聞かされたかのように、腕には鳥肌がたっていた。


「さて、話しもこの辺にして、そろそろ行こうか」

「……そうですね」

 カップの中の珈琲が冷めきってしまっているように、いつの間にか、囲んでいた焚火の炎は消えてなくなっていた。

 小屋を出ると、暖かな日差しが向かい入れてくれる。アルセントの玄関である国境の街セイグラムが近づいてくる足音が、着実に聞こえてくるような気がした。


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