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第八章 雪解けを待つだけ (迷走)


 足取りは重く、降り積もった雪に足首までスッポリともっていかれ、革製のブーツも普段より重みが増しているような気がした。

 辺りは暗くなり始め、辛うじて少し先に見える門の松明が帰る場所を教えてくれている。クタクタになりながらも、僕とルインさんは言いつけ通り、夜になる前に狩りを終え、街へと戻ってきていた。


 まず現実から話そう。

 意気揚々と弓まで買って狩りに出た僕達だったけど、やっぱり現実は甘くはない。上手い話には裏があったということだ。確かに雪ウサギは大量発生しているらしい、周りのベテラン狩人達は抱えきれない程の雪ウサギを抱いて街へと戻っているのだから間違いない、ただし素人には見つけることすら難しかったのだ。辺り一面真白な銀世界で、真白な雪ウサギを見つけることは、森の中で目当ての木の葉を探すことくらい難しい。目印になるのは赤い眼だけ、その眼の色を探していくしかないし、見つけたとしても逃げ足が速く臆病な雪ウサギを瞬時に射貫く腕と度胸が必要になる。止まっている的ですら上手く射貫けなかった僕では、到底できるわけもないし、練習場で才能を発揮していたルインさんですら、慣れるのは大変そうだった。

 結局、日が暮れるまでにルインさんは5羽、僕は……もちろん0羽。

 ただの足手まといである。


「そんなに気を落とすなよ。明日また頑張ろうぜ」

 雪ウサギの入った袋を手に、ルインさんは言う。

「……はい」

 ルインさんの言う通り、落ち込んでいてもしょうがない。気を取り直して明日頑張るしかないのだ。


「最初にしては上出来じゃないか」

 慰めにも聞こえる門番の男性の言葉を、愛想笑いでスルーし、雪ウサギを解体所で買い取ってもらうと、僕らは宿屋に戻ることにした。半日近く留守にしていたのでエイダの容態も気になっていた。少しでもよくなっていればいいけど。


 宿屋に戻ると、部屋の暖かさにかじかんでいた指先が解放されていくように柔らかくなる感じがした。長時間外にいたので気づかなかったけど、体はかなり悲鳴を上げていたようだ。僕らが戻ってきたことに気づいたのか、部屋をノックする音がして、すぐにマリアさんが入ってきた。僕らとマリアさん達の部屋はいつものように隣同士である。


「お疲れ様です。どうしでしたか?」

「うん。ちょっと雪ウサギを捕まえにいって来た。それでエイダの容態は?」

「落ち着いてますが、まだ熱が下がらないままです」

 マリアさんの雰囲気から、エイダの容態があまりよくはないことが伝わってくる。

「……そうですか」


「リオンさん、疲れているところすみません。少し下に降りるのでエイダさんの傍にいてもらってもいいですか?」

「え、あ、はい。もちろん」

 二人を残し廊下に出て隣の部屋に向かうと、眠っているエイダを起こしてしまう可能性もあったので、ノックせずに音を立てないようにそっとエイダの眠る部屋の中に入った。



………………………バーデンハイム 宿屋1階の酒場 ………………………


「リオンに聞かれたくないことがあるんだろ?」

 黙ってコーヒーの入ったカップを口元に持っていきながら、ルインは目の前に座るマリアに向かって口を開いた。エイダの傍にいることを口実に、リオンを遠ざけていることになんとなく気づいていた。


「バレていましたか?」

 少しバツが悪そうな顔をしてマリアは目を伏せる。


「分かるに決まってるだろ。長い付き合いだからな」

「そうですね……長い付き合い……です」

 そう言うとマリアはカップの中のコーヒーに写る自分の輪郭をじっと見つめた。

 少しの沈黙が二人の間を包む。酒を煽りながら馬鹿話に華を咲かせる周りの喧騒など関係ないかのようにだ。


「……エイダのことか?」

 しびれを切らしたかのようにルインは口を開いた。


「ええ」

 じっとマリアも頷く。その様子には、どこから話していいのか頭の中で組み当てている最中であることが見て取れた。


「昨日の夜、エイダさんの汗をタオルで拭いていたんです。最初は腕を、そして背中を拭き始めた時、見つけてしまったんです」

「見つけたって何を?」

「奇妙な模様です。エイダさんの腰辺りに浮かび上がった模様を」

「模様?」

「それも……ヘルタンの洞窟やハイダルシアの遺跡で見つけた“あの模様”です」

 “あの模様”という言葉に、ルインの脳裏には灯り師の炎に反応する様子が思い出されていた。


「“あの模様”か……確認するが、最初からあったわけではないんだよな?」

「はい。間違いなく。何度か一緒にお風呂に入ってますけど……今まで見落としていたとは思えません」

 マリアの言葉には、絶対的な確信がにじみ出ていた。


「……そうか」

 突然現れた模様……それはエイダが体調を崩していることと何か関係があるのか? ルインには分からないことだらけだった。


「とにかく分からないことが多すぎる。模様について、まだリオンには黙っておこう。場所的にはエイダも自分でも気づかないだろうし。二人には余計な心配事は増やしたくないからな。それでいいよな?」

「ええ」

 思考を張り巡らす二人をよそに、周りの喧騒は一段と盛り上がっていくばかりであった。


……………………………………………………………………………


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