第八章 雪解けを待つだけ (狩猟)
シュッ……パス……シュッ……パスン
規則正しい音が、測られているかのように等間隔で聞こえる。
先程から隣では、引き張られた弦が解き放たれると同時に、勢いよく矢が的に向かって放たれていた。
「お兄さん、筋がいいね」
ひ弱な腕で一生懸命弦を引っ張る僕の隣で、太い眉毛をした店員のおじさんが音を鳴らしていた張本人であるルインさんをべた褒めしていた。
シュッ……パスン
弦を力いっぱい引き、狙いを定めたまま解き放つ。ルインさんの放つ矢は綺麗な軌道で的の中心に突き刺さっていく。
どうして弓を撃っているのかというと……武器屋に入った僕らは「試し撃ちするかい?」と店員のおじさんに声を掛けられるまま、店の裏に併設された試し撃ち場に連れてこられていた。
横一列に射的場が並び、同じような目的の人たちが練習とばかりに的に向かって矢を撃っている。
試し撃ちをしている周りの人と比べても、確かにルインさんの腕は素人目から見ても一目瞭然なほどに断トツである。前から思っていたけど、何をやってもルインさんはセンス抜群である。ちょっと悔しい程にだ。
「いやーすごいな。こんなに簡単に的を捉えたのは兄ちゃんで2人目だよ」
「前にもいたんですか?」
ルインさん程の腕前の人がいるなんて想像ができなかった。
「でもあのにーちゃんはアルセントの騎士だったかな。そういう意味では素人のにーちゃんの方が凄いってことだ」
的を狙って放たれた矢が、初めて的を外してしまう。まるで何かに動揺してしまったかのように見えた。
「ルイン……さん?」
黙ったまま外れた矢を見つめるルインさんの背中に、恐る恐る話しかける。何故だか妙に話しかけずらいオーラがにじみ出ているように感じた。
「うん? あ、悪い悪い。やっぱり調子にのると外れてしまうよな」
そう言って笑うルインさんの表情はいつのまにか、いつもの様子に戻っていた。
「おいちゃん、じゃあこの弓と矢2セットもらうよ」
「まいどあり。それじゃあ弓と、矢が10本のセットで銅貨50枚だな」
「げ、結構するんだな」
予想以上の値段に、僕とルインさんは思わず目を合わせる。
ハイダルシアの相場では、宿に泊まるのが一人銀貨1枚程度だ。ちなみに銅貨100枚で銀貨1枚と同じ価値となる。つまり宿代半人分と一緒ということである。
「これでもかなり格安にしてるんだぞ。矢だって上手く使えば使いまわせるし。それにもし街を出ていらなくなる場合は、中古で買取もやってるからな」
ここまで言われて買わないわけにもいかない。それに雪ウサギを捕まえるには、絶対に弓がいるのだから。
「しょうがない。2つくれ」
「まいどあり」
なけなしのお金を払い弓を手に入れ交易所に戻ると、待っていたかのような眼差しで受付の女性が変わらず陣取っていた。
「無事、弓は手に入ったようね」
こうなることが分かっていたくせにわざとらしいものだ。きっと弓矢の値段も知っていたに違いない。
「おかげさまでな。これで俺たちは依頼を受けれるんだろ?」
「そうね。話を通しておくから、雪ウサギが大量発生している外れの森に繋がる南門に行ってみて」
受付の女性に促されるまま、交易所を出て今度は南門に向かうことに。外れの森に向かうには、常時開けたままの門とは別の門から出ることになっているそうだ。なんでも大量発生した雪ウサギが街に入ってこないようにしているそうだ。確かに遠くからでも目的地の南門は、街の入り口に建てられていた門よりも頑丈で高く積み上げられているように見えた。
門の横に立つ門番の男性に声を掛けると「おや、キミ達も外れの森で雪ウサギ退治かい」と慣れたように言われる。
「どうして雪ウサギだと?」
「今年は雪ウサギが多いから、キミ達みたいな旅の人も路銀稼ぎにたくさん参加してるからね。あの武器屋の弓を持っているのが目印かな」
あのっという言葉が気になったけど、深くはツッコまないことにした。
渡された通行書に名前を書いて返すと、頑丈な南門の端に造られた通用口から外に出るように勧められる。大きすぎて簡単には開けられないようだ。
「そうだ。長年ここで門番をやっている僕からのアドバイスだよ。雪ウサギを捕まえられなくても深追いせずに、日が暮れる前には戻ってくること。夜の森は危険だからね」
後ろから掛けられる言葉を胸に、僕とルインさんは雪に覆われた道を一歩一歩、外れの森に向かって進んでいくのであった。
かなり更新があきましたが、これから少しづつスローペースですが、更新していきます。
またお付き合い頂けましたら嬉しいです。




