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第一章 硝子な少女と少女奪還作戦 (襲撃)

 エイダを連れ、なんとか人ごみを抜けて街外れの家まで駆け抜けてきた。

 途中、何度か騒動に巻き込まれそうになったのは言うまでもない。


「入っていいよ」

 錆びついたドアを開けて、エイダを家の中に入れる。

 ボロボロで狭いとはいえ、一応は一戸立ての家である。

 もちろん孤児院の紹介で借りている賃貸なのだが。僕の家であることは間違いないのだから自慢くらいしてもいいだろう。きっと。

 中に入ると、最初に目がいくのは部屋中至るところに山積みに置かれた本たち。これが僕の数少ない趣味だ。特に植物学の本には目がない。

 実はなにをかくそう今日、学校を抜け出してまで港に行ったのも新しい本を受け取る為だった。


「すごい、本がいっぱい」

 床まで埋め尽くすように散らばった本を踏まないようにエイダは跳ねるように進んでいく。

 あーこんなことなら整理しておけばよかった。

 まさか女の子を家に連れてくることになるなんて想像もできなかったのだからしょうがないだろう。つい自分で自分にツッコんでしまう。


「とりあえずこの辺に座ってよ」

「……うん」

「えーっと、コップは……あったかな?」


 辛うじて本に埋め尽くされていなかったソファにエイダを座らせると、キッチンに向かう。日頃、お客さんなんて来ないだけに食器を探しだすだけで大変である。

 えーっと、飲み物はオレンジジュースが確かあったかな……。


「まさか女の子がくるなんて……それもあんなにかわいい子が」

 キッチンから見えるエイダは、ベッドに座ったままボーっと家の中を眺めていた。


「おまたせーオレンジジュースしかなかったけど……いいかな?」

「ありがとう」

「よかった。うん? どうしたの?」

 オレンジジュースを受け取ったエイダはじっと壁を見つめていた。

 いや、正確には壁に掛けられた写真を見ていた。

 

「あれは?」

「あぁ……これは孤児院の皆で撮った写真だよ」

「孤児院?」

「うん。物心ついた時から孤児院で育ったから、親の顔を知らないんだ」

「悲しくない?」

「ううん。悲しくないよ。だって僕には孤児院のみんながいたから」

 親の顔を知らなくても、本当の家族のように横で笑ってくれる孤児院の皆がいた。それだけで寂しくなかったのは本当のことである。


「……一緒」

「え?」

「私も家族はいない……」

「エイダは悲しくないの?」

「悲しくない……ほとんど会ったこともないから」

「……そうなんだ」


 う……会話が続かない。せっかく家族の話をしていたのに思った以上に重苦しい雰囲気になってしまった。くそー、こんな時どんな話をすれば女の子が喜ぶんだ。あんな呪文みたいな授業するくらいだったらアラド先生も、女の子と上手く話す方法を教えてくれていたら居眠りなんてせずに聞いていたのに。

 今さら悔やんでも後の祭りである。

 こうなったら何か……何か話題を変える方法はないだろうか。


 クゥ―


 話題つくりのために思考回路を巡らせていると隣から可愛らしい音が聞こえた。

 幸か不幸か僕もエイダも黙っていたので、わかりやすいくらい部屋に響いたこの音は、間違いなくお腹がすいた時にでてしまう、あの音だ。

 自分のお腹の音でないことは間違いない……ということは……そっと目線を横に向けると


「……お腹すいた」

 恥ずかしげもなさそうにエイダは言う。

 それがなんとも可笑しくて僕はつい笑ってしまっていた。


「……?」

 どうして笑われているのかわからないのかエイダはポカンとした顔をしている。

 それがまた洗練された容姿とのギャップでおかしかった。


「ごめんごめん。僕もちょうどお腹がすいてたんだ。何か作るよ」


 まだポカンとしたままのエイダを置いてキッチンに向かう。

 確かちょうど具材は残っていたはずである。

 戸棚を開けると、今日の朝、漁師さんから貰った魚と野菜、あとは乾燥豆が少し残っていた。これなら二人分は作れそうである。

 孤児院の時から家事をしていたおかげで、ある程度の料理はマスターしている。

 包丁を握るとさっそく料理に取り掛かるのだった。



~場面は変わり、リレイド市街のとある場所~


 暗い部屋の中、外から聞こえてくる鐘の音だけが響いていた。

 木製のドアがきしみながら開くと、部屋の中に光が差し込む。それと同時に光を遮るように人が部屋に入ってくる。


「見つかったか?」


 部屋の奥から低いかすれた男性の声が聞こえる。

 暗い部屋の中にはすでに先客がいたようだ。


「はい。少し手間はかかりましたが居場所は判明しました」

 部屋に入ってきた人物は答える。

 声色からして男性だということだけ分かる。


「ならばすぐに行動に移せ」

「わかりました。ただイレギュラーな住民との接触もありますので、もしかするとケガ人がでる可能性もありますが」

「それは問題ない。警備隊には私の方から話を通しておこう」

「ありがとうございます。これで心おきなく計画を遂行できそうです」

「次の失敗は許されんぞ」

「かしこまりました」

 この言葉を最後に、部屋から人影が出て行った。


「待ち遠しいな……エイダ」

 呟くような声だけが、静かに部屋に吸い込まれていった。


~場面は戻り、リオンの部屋~



「よーし、できたよ。エイダ」


 湯気の上がるスープの入った器を二つテーブルに並べる。もちろん一つはエイダので、もう一つは僕のである。部屋の中に広がるトマトのいい香りが食欲をさらにそそる。うん、我ながら家にあった材料だけで作ったにしては、なかなかの出来である。


「……おいしそう」

 エイダも身を乗り出して覗き込む。第一印象は悪くないようだ。

「題して、魚と野菜、穀物のトマト煮込みかな? 偉そうに言ってもただのごちゃ混ぜ煮込みなんだけど……聞いてないね」


 僕の説明なんて耳には入ってすらいないようだ。気が付けば目の前のエイダは無我夢中でスプーンを動かしていく。そんなにお腹がすいていたのだろうか? おもしろいくらい見る見る器の中のスープが減っていく。


「お腹すいてたみたい……だね。僕のも食べる?」


 まだ手を付けていなかった自分の皿を勧めると、一瞬僕の顔を見る。

 遠慮しているのだろうか? 気をつかってくれるのはありがたいけど、口元のよだれが完全に食べたいアピールをしている。


「僕はお腹すいていないから、いいよ」

「……ありがと」


 無言で食べ続けたエイダは、あっという間に2人分完食してしまった。あんな細い体のどこにこんな食欲がわくのだろうか? 謎である。

 寂しく僕は余っていた乾燥豆を摘まみながら、器を片付けていると、窓から見える夕日も海の向こうへ沈もうとしていた。

 赤い夕陽を黒いカーテンが包み込むように、僕の部屋全体も暗闇が覆い隠そうとしている。

 部屋の4隅に置いた小さなロウソクに火を点けていくと、ほのかな光が部屋を照らし出していく。


「暗くてごめんね」

 もっと上質なロウソクやランタンがあれば部屋全体が明るくなるけど、貧乏な僕の家はこれで精いっぱいである。窓から見える周りの家も、それぞれ小さな明かりがともっているだけだ。


「水……ある?」

 ふいにエイダが口を開いた。


「あるけど……どうして? 喉乾いた?」

「ううん。小さなお皿に入れて私の前に……あとは針が欲しい」

「裁縫のならあるけど……それでいい?」

「それで……いい」


 どうしてそんなものが欲しいのかは分からないけど、なんとなく断ってはいけないような、断れない雰囲気を持っていたので、素直に僕はキッチンへと向かった。

 まずは戸棚から薄い手の平サイズの皿を出して、あとは桶から水を灌ぐ。裁縫用の針はちょうどエイダの座るソファーの横に置いてある針山にさしてあるので、これで準備OKである。

 水の入った小皿と針をエイダに渡すと


「……痛」

 エイダはいきなり親指に針を刺した。


「ちょっ何してるの?」


 慌ててエイダから針を取り上げる。

 針の先端には血がうっすらと付着していて、エイダの親指からはじんわりと血が流れていた。


「血を止めないと」

「いいの、それよりこれを水の中に……」

 エイダは親指から垂れる血液をポタポタと小皿の水に落とす。水面に落ちる血液は波紋を広げ、何もなかったかのように透明な水の中に溶けていく。


「この水に火を近づけて」

「え? そんなの消えるに決まって」

「お願い」

「……う、うん」


 さすがに真剣な目でお願いされると、やらないわけにもいかない。とはいっても、水の中に火を入れてつくはずが……

 マッチ箱からマッチを取り出し、擦って火を点けると、ゆっくりエイダの血が溶け込んだ水に近づけていく。

 すると……


「……え?」


 思わず握っていたマッチ棒を水の中に落としてしまった。

 なぜって、目の前の小皿からは綺麗な炎が燃え上がっていたからだ。


「火が……ついてる? どうして? 水に火が……」


「私の血は……少し変わってる」

「血?」

「うん……水に溶かすと火を燃やすの……おかしいでしょ?」


 そう言って少し悲しそうにエイダは目を伏せた。


「そんなことない。変じゃないよ。変じゃないしすごいくらいだ」

「でもこれ……おばちゃんが人前で見せたらダメって」

「どうして?」

「悪い人がいっぱいいるから……」

「でも今は?」


 見せてはいけないと言われているのにどうして見せてくれたのだろうか? あまりに部屋が暗かったから……そんなわけではないと思うけど。


「リオンは……ご飯を食べさせてくれたいい人だと思うから……それに」

「それに?」

「……それにおかわりもくれたから」


「え?……それだけ?……プ、ハハハハ」

 ご飯を食べさせてくれたから……簡単な理由だけど、そんなことで自分の秘密を信じて教えてくれたエイダを見てると、うれしくてなんだか顔が熱くなってくる。


 エイダが点けてくれた炎は、ロウソクの火を消しても十分なほど部屋の中全体を照らしだしてくれる。といっても寝るには明るすぎるので、小皿を覆うように灰色の半円状のガラスを被せる。この地方では寝るときにロウソクの火に被せるものである。小さな空気穴も開いているので、途中で消えることなく、最後まで燃え続けてくれる。

 灰色のガラスを通すと、太陽のように照らしていた炎の光も、月明かりのような優しい光に変わっていた。


「さて……どうしよっか?」

 女の子と二人きりで家にいることなんて初めてのことだ、こんなときどうすればいいのか? 時間も時間だから寝るんだけど、え? ベッドに二人で? いやいやそんなわけない、ここはエイダにベッドを進めて、僕はその変で雑魚寝を……うん?

 なんて風に考えていると、いつのまにはソファーで横になって眠っているエイダの姿があった。

 静かだと思っていたらいつの間に。親指の傷もすっかり血は止まっているようで安心した。

 なんだか慌てていたのは僕だけのようだ。

 誤魔化すように頭をかくと、起こさないようにそっと布団をかけてあげる。


「おやすみ」

 ソファーの横に寝転がって僕も目を閉じるのだった。



 ガシャン


 窓ガラスの割れる音がした。

 目を開くとまだ部屋の中は月明かりが照らす暗闇で、朝は訪れていないようだ。

 部屋の中に流れ込んでくる風の音と、来訪者の足音が徐々に部屋に近づいてくるのを感じる。こんな時間にやってくる人がいい人なわけがないだろう。

 ソファーを見ると、エイダは何もないかのようにすやすやと眠っている。相手は誰なんだ? 考えている間にも、ドアが蹴破られ、全身黒づくめの男達が侵入してきた。


「誰だお前たちは?」

 狭い部屋の中、5人の男達に囲まれる。いや、正確にはおそらく男達である。全員覆面を着けているので顔はわからなかった。それぞれ猿、馬、鼠、鬼、翁の面。


「女はどこだ?」


 猿面の男が怒鳴るように言う。声色からしてやはり男で間違いなかったようだ。

 女? 間違いなくエイダの事をいっているのだろう。ということは、コイツらがエイダの言っていた、追われている相手なのだろう。


「ソファーにいるぞ」

 僕が答える間もなく、もう一人の鬼面の男がソファーで眠るエイダを覗き込むように言う。


「白銀の髪、間違いないコイツだ」

「おい、丁重に扱えよ」

「わかってるよ」

 鬼面の男は、寝たまま起きる様子のないエイダを慎重に抱きかかえる。


「エイダをどうするつもりだ」

 僕の言葉に一斉に5つの覆面が合わせたように振り向く。統率のとれた動きは一段と恐怖心を掻き立てる。


「おい、こいつはどうする?」


 馬面男は、隣に立つ翁面の男に尋ねた。

 どうやらこいつがリーダーのようだ。


「殺そう、危険因子は全て殺していいと言われている」


 殺すという言葉に体が急にビクッと震えだす。


「おい、こいつ腰がひけているぞ」


 あまりの恐怖に、腰がぬけて動けなかった。今まで生きてきて初めて、自分の死をこんなにも意識させられることはなかった。こんなにも怖くて、何もできなくなるとは思わなかった。


「怖いだろうから心配しなくても、楽に殺してやろう」


 キラリと刃先が光るナイフを片手に馬面の男は一歩一歩近づいてくる。

 なぜだか僕はその動きがとてもゆっくりに見えた。まるで自分の死が1秒毎に数えられているかのように感じるほどに。

 

「死ね」


 振り下ろされるナイフに、自分の死を悟って目を閉じた。

 ただ目を閉じてから一向に刺された感覚は襲ってこない。

 おそるおそる目を開けてみると、目の前に覆面達の姿はなくなっていた。

 そのかわりに見たこともない男性の姿があった。


「大丈夫か?」


 僕を覗き込むように男性は言う。

「アイツらは?」

「俺たちが駆け付けたら女の子を抱えて逃げていきやがった」

「女の子? そうだ……エイダが」


 男性の言う通り、ソファーからエイダの姿はなくなっていた。

 アイツらに連れていかれてしまったんだ。


「エイダ?」

「あの、白銀の髪に……蒼い透き通った目をした女の子で。それで……」

 必死に口を動かそうとしているのに、今になって急に怖くて震えてしまう。口が上手く動かないのだ。それに伝えたくてもエイダのことを何も知らなかった。


「その女の子が攫われたのか? さっきの奴らに」

「……はい。僕は何もできずに」


 自分自身が情けなくなる。僕はエイダが連れていかれている間、自分の死が怖くて目をつぶって誤魔化していたんだ。

 いつの間にか、僕の頬を涙がつたっている。


「泣くな、泣いたってその子が助かるわけではないだろ」

「……は……い」

「よし、それなら涙を拭け」


 手の平で流れ落ちる涙を拭った。


「とにかく、どうしてその子が浚われたのかが分からないと……」

 男性は腕を組んで考える。


「あの……そういえばアナタは?」

 助けてもらったとはいえ、全く見覚えのない男性であった。

 間違いなくこの辺に住んでいる人ではなさそうだ。


「あ、そうか、悪い、俺はルイン。しがない旅人ってところかな。リレイドには今日船で着いたばかりだ。それであいつが……あれ? マリア?」

 ルインと名乗る男性は誰かを探すように部屋の中を見渡す。


「ルイン、これを見てください」

 キッチンから知らない女性の声が聞こえてきた。

「そこにいたのかマリア、どうした?」

「この炎はもしかして?」

 マリアと呼ばれた女性が持ってきたのは、小皿の中で燃え続ける炎であった。


「この炎……この色……」

「そのまさかだと思います」

 炎を見た二人は、お互いに目配せした後、未だ座り込む僕を見る。


「おい、えーっと……お前の名前は?」

「リオンです」

「そうかリオン、正直に答えてくれよ」


 ルインさんはそう言って、マリアさんの持つ炎を指さした。


「これはどこで手に入れたんだ? もしくは誰がつけた炎だ?」

「それは……あの……」

 言おうとした瞬間、エイダの言った「人前では」という言葉が脳裏に浮かんだ。

 この人達に言ってもいいのだろうか?


「大事なことなんだ、はっきり答えてくれ」

 ルインさんの目を見ていると、直観だけど悪い人には見えなかったし、嘘をついているようにも思えなかった。


「……エイダがつけたものです。エイダが自分の血を入れたから」

「そうか、そうなると、すべての辻褄が合うな」

「どういうことですか?」

 目の前の二人だけが納得しているようで、なんだか 自分だけ置いていかれている気分である。


「リオン、灯り師って名前を聞いたことがあるか?」

「あかりし?」


 全く聞いたこともない言葉だった。

 その灯り師とエイダにどんな関係があるのだろうか?


「じゃあ話を変えよう。お前の住んでいるリレイドの街が、どうして港町として繁栄しているか知っているか?」

「それは……ミレーネの大灯台があるからです」

 ミレーネの大灯台とはリレイドの高台にそびえ立ち、どんな嵐や霧が立ち込めても船頭に正確な港の位置を知らせることができる。4大国のひとつリレイドの象徴であると歴史の授業で習ったことがあった。


「そう、そのミレーネの大灯台と灯り師に大きな関係があるんだ」


 大きな関係とはいったいなんだろうか?

 ルインと名乗る男性の言葉には何故だか聞いてしまってはいけないような、聞いてしまってはもう戻れなくなってしまうかのような雰囲気を感じてしまう。


「もともとミレーネの大灯台の“ミレーネ”とは人の名前だったそうだ。なんでもミレーネという女性はとても美人で、特に同じ人間とは思えないような白銀の髪をして、その目は全てを見透かすような蒼だったらしい」


 白銀の髪……そして蒼い眼をした綺麗な女性。どちらもエイダと同じである。こんな偶然があるのだろうか? いや、偶然ではないはずだ。


「ただ彼女の不幸は灯り師だったこと。灯り師の一族には生まれ持って授かっている一つの特殊な能力がある。それはリオンも間近で見て知っている通り、自分の血液を液体に溶かすと炎をつけることができる、つまりなんでもない液体を燃料に変えることができるんだ」


 ルインさんの言葉に自分の指に針を刺し、流れ落ちる血を水の中に溶かしていくエイダの姿が思い出される。


「しかもその炎は流した血液の量によって半永久的に燃え続け、その輝きは普通の炎とは比べものにならないほど強力で綺麗に輝いているとのこと。まさに目の前のこれだな。現物を、こんなに近くで見るのは俺も始めてだ」


 目の前では未だに輝きを保った炎が燃え続けている。

 それは確かにロウソクや焚火によってできる炎とは比べものにならないほど輝いていた。


「もう分かったかもしれないけど、ミレーネの大灯台の一番上で輝いている、あの炎は灯り師であったミレーネという女性の血液で燃えているんだ」

「そんな……あの灯台が……」

「あれだけの輝きと大きさだから、使った血液の量も並大抵のものではないはず、たぶんすべてをささげたんだろうな」

「全てを……」


 全てを注いだということは、つまりは灯台のために死んだということだろう。

 リレイドに住んでいながら何も知らなかった。

 僕が住むこの街の繁栄が、まさか一人の女性の命によって成り立っていたなんて、そして昨日出会った少女も同じ力を持っているなんて。


「じゃあ……エイダを連れ去ったのも……」

「彼女の特別な能力を狙ってだろうな」

「いったい誰がそんなことを?」

「それは……」

 途中まで言いかけて、シッと人差し指を唇に近づけ、隣に立つ女マリアさんに目配せをする。

 マリアさんも頷きながら、小窓から外の様子をうかがう。


「ルイン、誰かが来ます」

「大方騒ぎを聞きつけた騎士隊だろう、俺たちがいると変に疑われて面倒だ、とりあえず姿を消そう。リオン裏口はあるか?」

「それなら廊下の奥から、出られます」

 覆面の男たちに荒らされた廊下の先を指さす。

 裏口からは、市街とは反対にある裏山に出ることができる。


「行きましょう、ルイン」

 マリアさんは先に裏口に向かって走り出した。


「いいかリオン。とりあえずエイダのことは騎士隊には黙っておけ」

「は、はい」

「騎士隊がいなくなったら、また来るからな」


 二人が裏口から出ていくと同時に、玄関から複数の男達の声と、ドアをノックする音が聞こえてきた。

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