プロローグ
かつて大きな戦争があった。大陸を統治する四大国、アルセント・ハイダルシア・リレイド・エルルインによる永く悲しい戦いであった。終わりの見えぬ戦いに誰もが憔悴しきる中、一筋の光が差し込んだ、一人の老人の声に導かれるように各国は休戦の旗を上げたのだ。後に『エビナスの軌跡』と言われるこの事柄。声を上げたエビナス・マクベスを振興する人々によって造られたのが、こんにち大陸全土に支部を置くエビナス教会である。(参照:四大国暦戦録)
真夜中の路地裏。
叩きつけるような雨が降りしきる中を、ランタンの炎が照らす。
いくつもの小さなランタンの光が、蛍のように右往左往しながら動き回っていた。
ランタンを握った男達は暗闇の中、同化するように黒いコートに黒いマントを頭からしっかりと被っている。
時折、フードの隅から能面のような仮面が見える。
「どこいったんだ?」
「早く探すんだ」
雨音にかき消されながらも、男達の怒号のような声が響き渡る。
男達が走り抜けた側には古びた倉庫が立ち並ぶ。
その一つ、入口に大きくBと書かれた倉庫。その入り口のドアはかすかに開いていた。
雨風が隙間から襲い掛かるように降り込む倉庫内は、木箱が所せましと押し込まれている。
その中の一つに、じっと佇む少女の姿があった。
木箱の中で詰め込まれた果物と一緒に息を殺してじっと身を隠しているのであった。
しだいに、少女の耳には男達の声が聞こえなくなる。
待ち望んだ安堵感の中で、重たい瞼は少女の蒼く透き通る目を覆い隠すのであった。