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第21話 靄のかかる未来②


 気が付けば、女性陣から少し離れたところでヴァルターが絵を描いていた。天気のいい日にはよく見られる光景だ。

 ふわふわのチョコレートブラウンの髪が風に揺れ、空を見つめる琥珀色の瞳が優しく細められる。


 この本音が混じったり隠したりの会話が彼に聞こえていやしないかと落ち着かないのはクラリッサだけらしい。

 確かに集中したヴァルターが周りの音など何も聞こえていないのは周知の事実だが、なぜ()彼が集中していると信じられるのかは一生わかりそうにない。



「ヨハンのことだけはいつも感情に任せて表現するのよね」


 シュテファニがクスクスと笑う。どうやらヨハンに対して攻撃的なのもまた、アメリアにとっては日常的なことだと理解できた。が、それにしてもと思う。

 確かにヨハンには内向的な面はあるだろうし、少し不思議ちゃんだとクラリッサも感じたけれども、言っていいことと悪いことがある。


「だってそうじゃない。昔から何を考えてるかわからないし、気味が悪いわ」


「それはさすがに言い過ぎでは……」


 クラリッサはアメリアを諫めつつ、いつだったかの図書室での会話を思い出した。

 観察者という発言は不思議ではあったけれど、誰しも自分に特別感を覚えることはある。ヨハンはちょっと遅咲きだっただけに違いない。


 特技になりつつあるクラリッサの曖昧な笑顔を、アメリアが一層厳しく睨みつけた。


「あなた、ヨハンにしたらいかが?」


「え? それは、どういう」


 会話の流れを考慮すれば、アメリアが何を言わんとしているかはわかる。が、クラリッサはまた曖昧に笑ってわからない振りをした。

 どう返事をしたって苛められるのが目に見えている負け戦だ。


「婚約を破棄されたからここで次の相手を探してるんでしょう? ヨハンだったら誰にも相手にされてないし、きっと二つ返事よ」


 クラリッサが助けを求めてシュテファニとカトリンに視線を送ると、ふたりは仲良くスコーンにジャムを塗ってはキャッキャと笑っている。そっと自分のスコーンも差し出したいところだ。


「いえ、そんなつもりでここへ来たわけじゃ」


「昔からそうやって何事もお行儀良くしてらしたわよね」


「ちょっと、アメリア」


 冷たく言い放つアメリアをシュテファニがなだめた。全く話を聞いていなかったわけではないらしい。

 できるだけ腫れ物には気づかないようにして、空気を読んで牽制する。クラリッサはシュテファニの立ち回りに貴族の生き方の基本を見た気がした。勉強になります。


 シュテファニから注意を受けたアメリアは、まるで堤防が決壊したかのようにポロポロと愚痴をこぼし始めた。その手元では割られたスコーンが皿に崩れ落ちている。


「最近急にお父様が、『バジレ宮での生活はどうか。フロレンツはどうしてる』ってしつこくお尋ねになって。この間の夜会ではそれはもう細々(こまごま)と質問されて、ストレスが溢れ出してしまいそう」


(しまいそうっていうか、もう溢れてたけどね??)


 アメリアの父グンター・ギーアスターはアメリアがフロレンツと結婚することを望んでいるのだろうか、と考えてからすぐに、王家と縁続きになることを望まない貴族はいないなと思い直す。


「あなたの家はもう守るべきものを失ってるのだし、気持ちも軽くていらっしゃるでしょう。ヨハンでも御の字なのでは? 次男だといってもハーパー家ですし」


 アメリアは言うだけ言うと席を立ち、呼び止める間もなく歩き去っていく。

 ヴァルターが、横を通り抜けるアメリアに気づいて心配そうにこちらを見たが、残された三人にはなんでもないという風に首を横に振るしかできなかった。


「なんかごめんねぇ~」


「ああなったらもう、ご機嫌とれるのはヨハンくらいだから」


 半泣きのカトリンの頭を撫でながら、シュテファニが呆れ顔で呟いた。


「ヨハンが?」


「ええ、そうよ。昔からそうだったでしょう」


 そうだっけ、とこめかみを指で押しつつ瞳を閉じたクラリッサの瞼に、懐かしい光景が蘇った。泣き出すカトリンとプリプリ怒るアメリアだ。


 みんなでおままごとをしていた時のことだった。

 カトリンが子どもで、クラリッサがお母さん、アメリアがお姉さんという役どころだった。お父さん役と、お姉さんの恋人という役もあって全部で5人いた。


 アメリアがお母さん役をやりたいと言いだして交代したのに、突然アメリアが怒り出した。そんな不思議な記憶だ。


「そう、だった、ような?」


 しっかり思いだせないせいで同意とも言えない相槌でその場を濁す。

 クラリッサはアメリアの怒った理由がわからずオロオロするばかり、としか思い出せないのだが、どうやらそれを解決したのはヨハンだったらしい。

 アメリアのご機嫌をとるコツがあるなら是非教えてもらいたいものだ。


今回登場人物紹介

●クラリッサ:弱小男爵アイヒホルン家の長女。曖昧笑顔が特技になりつつある。

●シュテファニ:ローゼンハイム公爵家ひとり娘。全貴族の憧れの君。

●カトリン:オスヴァルト伯爵家の末っ子。もちもち。世間知らず。

●アメリア:ギーアスター伯爵家長女。縦巻きロールと敵対心がチャームポイント。


名前だけ登場の人

●ヴァルター:ペステル伯爵家の長男。のんびり屋さん。絵描き。

●ヨハン:ハーパー伯爵家の次男。クールな見た目と柔らかい物腰がアンバランスな魅力。

●フロレンツ:ウタビア王国の第二王子。無表情で偉そう。

●グンター:アメリアの父。ギーアスター家当主。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アメリアの態度に違和感覚えますね~。 単にクラリッサの事が嫌いというより、何やら複雑な思いを抱えていそうな……。
[一言] クラリッサが昔のことをことごとく忘れてるのは何かの伏線なのかな?( ˘ω˘ ) そのうちラノベ主人公らしく「思い……出した!」で無双するのかな?( ˘ω˘ )
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