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第12話 知ってること、知らないこと④


「俺、様子見て来てやろっか」


「余計なことはするな」


「ほんとに何にも覚えてないのか確かめてくるだけだってー」


「おいロベ――」


 新しい仲間(クラリッサ)の歓迎会を終え、自室へ戻る途中でロベルトが姿を消して、フロレンツは大きな溜め息を吐いた。あの男は余計なことをするなと言っても絶対するからだ。


 だが、既に消えてしまった彼を呼び戻す笛は持っていない。できるだけ被害が最小限に収まるように祈って帰還を待つことにした。




 クラリッサが新興貴族のバルシュミーデ子爵と婚約したと最初に聞いたとき、フロレンツはまだ暴れることしかできない子どもだった。王族でありながら何もできない自身に腹をたて、酷い生活を送っていた。


 外で飲んで暴れるときには綺麗な服を着ないほうがいいと学んだ頃、道端に転がるフロレンツを拾って帰ったのは親のいない子どもだった。

 それから親交を持つようになった孤児院で、ある日フロレンツは子どもから大切なことを学んだのだ。


『俺たちは大人の都合でここにいる。大人の都合で出て行く友達がいる。もし友達が幸せじゃないなら、絶対に助けに行く。すぐには無理かもしれないけど、絶対に。俺たちはもう大人に振り回されちゃ駄目なんだ』


 そうだ、その通りだ。

 彼女は大人の都合でバジレ宮から去ったし、大人の都合で親よりも年上の相手と結婚しようとしているが、そんなのは許されない。許さない。


 過去の事件がきな臭いとフロレンツに教えてくれたのは、兄ハインリヒの婚約者であるエリーザ・グレーデンだった。グレーデン家はアイヒホルンと縁続きにあり、誰も彼女の言葉を信じないが、フロレンツはそれに賭けることにした。




 歓迎会から自室に戻ったフロレンツは、書棚からいくつかの書類の写しを取り出した。

 12年前、アイヒホルンが没落することとなった事件の審議記録や資料、それに関係者のプロフィール……。


 子どもからやるべきことを教えてもらってから、フロレンツが最初にやったのは過去の事件を知ることだった。どんな()()()()()があれば、クラリッサから教育を取り上げることができるんだと。


「誰がアイヒホルンを嵌めたかなんて、一目瞭然なんだよな」


 ため息と共に転がり落ちた言葉は小さくて、フロレンツ以外の誰にも聞こえていない。


 そう呟きたくもなるほど、穴だらけの論建てが記載された資料だ。


 もちろんこの資料自体は特別な許可がなければ閲覧できないし、わざわざ過去の事件を掘り起こそうという人間もいないのだから、犯人が一目瞭然でも構わなかったのかもしれない。


 それに万一、このフロレンツのように誰かが掘り返したとして、過去の事件の裁決をひっくり返すのはほぼ不可能だと考えているのだろう。


 絶対に真実を白日の下に晒してやる。


「ずいぶん怖い顔だね、フロレンツ。クラリッサも怯えてたんじゃない?」


「怯えるならアメリアのほうだろう」


 ソファーに腰かけたヴァルターがふわふわと笑っている。クラリッサがいなくなって落ち込んだ幼いフロレンツを励ましたのも、喪失感を共有したのもヴァルターだった。


 確かにヴァルターは昔クラリッサと一緒に絵を描いたり歌をうたったり、芸術的な方面で意気投合していたので、フロレンツの気持ちの一部は理解できるのだろう。


 一方でアメリアはクラリッサを目の仇にしたままだ。小さな頃に彼女はクラリッサを苛めて事件を起こしたが、まさかこの年になって嫌悪感を隠しもしないとは。


「彼女は彼女で必死なんだと思うよ。さすがにあの頃と同じことはしないんじゃないかなぁ。それよりヨハンだけど、彼は何にも知らないって言うよりは関わり合いになりたくないって感じがした」


「関わり合いになりたくない?」


 例の事件とは無縁そうで、クラリッサを友達だと思っているヴァルターにだけ、フロレンツは協力を依頼していた。


 ヴァルターもまた自分の目的のために快く手伝ってくれている。目的……ペステル家を継がないために、このバジレ宮で絵に没頭する環境がほしいと言っていたが、それは本音の半分といったところだろう。


 問い詰めるのは野暮だということくらい、フロレンツも理解しているけれども。


「そう。昔のことは知らないし考える時間がもったいないって感じだね。彼は昔からひとりで本を読む時間をこよなく愛しているから。邪魔されたくないみたいだ」


「そうか。引き続き、3人の様子には気を配っていてほしい」


「わかった」


 ヴァルターへの依頼、それはヨハン、アメリア、カトリンが妙な動きをしやしないか見ていてほしい、というものだ。

 アイヒホルン没落事件の審議記録とその関連資料に名前の載る家の子女だから――。


 彼らは恐らく事件の真相など知らない。フロレンツと同様に12年前はほんの小さな子どもだったのだから。


 だが事件を起こした犯人一味はきっと気が気でないはずだ。クラリッサがなぜこのバジレ宮に呼ばれたのか。道楽者の馬鹿王子と揶揄されるフロレンツが何を始めたのか。


 何かしら、動きはあるはずだ。見逃さないようにしなければならない。



「フロレーンツ、戻ったぞー」


 楽し気なロベルトの声が扉の向こうから聞こえる。ああ、この声はきっと余計なことをしてきたのだろう。フロレンツは顔を顰めながら従者(ヴァレット)に扉を開けるよう指示した。


今回登場人物紹介

●フロレンツ:ウタビア王国の第二王子。無表情がデフォルト。ゲシュヴィスター制度の研究をしているらしい。

●ロベルト:エルトマン公爵家長男。軽薄系イケメン。下半身に脳みそがあるタイプ。

●ヴァルター:ペステル伯爵家長男。のんびり屋さん。絵を描くのが好き。


※名前だけ登場の人

●クラリッサ:弱小男爵アイヒホルン家の長女。主人公。

●ハインリヒ:フロレンツの兄。ウタビア王国の王太子。

●エリーザ:グレーデン伯爵家の長女で、王太子ハインリヒの婚約者。クラリッサの従姉。

●アメリア:ギーアスター伯爵家長女。縦巻きロールと敵対心がチャームポイント。

●カトリン:オスヴァルト伯爵家の末っ子。もちもち。

●ヨハン:ハーパー伯爵家の次男。物静かなクールガイ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおっ! フロレンツ熱い男だった! 事件がどのように暴かれていくのか、楽しみです♪ ……にしても、あとがきの登場人物紹介が、ますます面白くなっていくw 「下半身に脳みそがあるタイプ」、…
[良い点] ロイヤル嫌味……笑!! ロイヤル付ければ何でもイケるぜ☆ ロイヤル揚げ足取り ロイヤル慈悲 ロイヤルストレート果汁100%!! 事件が徐々に明らかになっていくのでしょうか…… 楽し…
[一言] やっぱりヤンデレだったあああああ!!!!! FOOOOOOOO!!!!! やっぱうにさん作品のヒーローはこうでないと!!(キラキラ)
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