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十話

「切り倒しませんって、にいちゃん。ふざけてるのか?」


「ふざけてませんよ。まぁ見てて下さい」



少し怒り気味な親方さん達を宥めつつ安全な場所まで下がらせる。そして姉妹の元へ。



「お待たせ、準備はいい?」


「親方さん達、怒ってませんか?」


「ははっ、ちょっと僕の言い方が不味かったかな?でも大丈夫だよ。それじゃ打ち合わせ通り始めようか」


「「はい!!」」



そう言って姉妹は木を中心にロープを張った線の対角線上に挟み込む様に移動して、僕は親方さん達の方へ。



「……にいちゃん。なんでここにいる」


「ここなら安全ですからね」


「……」



凄い目で見られた。でも仕方ない。これからやる事は二人にしか出来ないからね。



「はちさーーーん!」


「いきまーーーす!」


「二人とも、お願いしまーーーす!」



そう言って二人は木から十分に離れた所で地面に両手を置いた。


静かな時間が過ぎる。親方さん達も二人の様子を見守っている。そんな時間が暫く続いた時、



「おい、にいちゃん。嬢ちゃん方は一体何を……」



ズッ……



きたっ!



「なっ、なんだ!?」



ズッ、ズズズッ……ゴゴゴゴゴゴッ



身体の芯まで届く地鳴りの様な音が鳴り響く。音と共に巨大な樹木は徐々に周りの樹々よりも背を低くする。実際にはゆっくりとロープの張られた方へと傾いている。その証拠にピンと張られたロープがだんだんとたわみ始めた。



瞬間。



ッダァーーーーーーン!!!



轟音と共に倒れた巨大な木。倒れた際の衝撃で発生した暴力的な風の塊を受けて僕は倒れそうになるが、親方さんが支えてくれた。

巻き上げられた砂埃で視界はかなり悪い。徐々に落ち着いてくると目の前には緑一色。そのまま少し移動して姉妹を確認。……ふぅ〜無事みたいだ。かなり距離を取ったけど万が一がなくて良かった。

茫然としている様に見える二人に声をかける。



「二人ともー、怪我とか無い?大丈夫ー?」


「は、はーーーい!」


「大丈夫でーーーす!」



あれ位距離を開ければ問題ないかな?二人の無事を確認した後、親方さん達の方を見る。親方さんは倒れた木を指差しワナワナと震えている。他の人達も驚愕に目を見開いている。


さて、ここからの反応は大きく分けて二つに分かれる。歓迎か否定だ。今までの経験上、否定は職人と呼ばれる人に特に多い反応だ。職人は目的に対して過程を重要視する傾向にある。その過程とは自分が培って来た経験や知識、技術にある。それ以外のそれらの行為で結果が出る事に対しての強い拒否感があるらしい。

歓迎する事はすなわち今までの自分を否定する事に感じてしまうのだ。


開拓という目的に対して『切り倒す』と言う過程を親方さん達がどれほど重要視しているか。



「おう、にいちゃん」


「はい」


「すげぇーじゃねぇかっ!!!どうやった!!!」



親方さんは僕の両肩をガシッと掴んで激しく揺さぶる。お陰で僕の視界は親方さんと空を行ったり来たり。思ってた以上に歓迎してくれた様だ。



「お、親方さん、お、落ち着いて下さい!」


「わ、悪い!だがこれが落ち着いていられるか!」



親方さんの周りにいた人達も興奮で叫んでいる。遠く他の作業をしていた人達も集まり出した。



「それでにいちゃん!これはどういうこった!?」



未だ興奮冷めやらない様子で親方さんが聞いてきた。近い……

どう説明しようか悩んでいた所、倒れた時に折れたのか地面に絵を描くのに丁度いい長さの枝が目についた。僕は地面に絵を描いていく。



「これが倒す予定の木を横から見た絵だと思ってください」


「……にいちゃん、絵心ないな」


「……木の根本の土を魔法で柔らかくします」



親方さんのツッコミをスルーしながら説明を続ける。



「いや、この方法は試したことがある。だが沈むだけだったぞ」


「なので、柔らかくする場所を指定してあげるんです」



僕は地面に描いた絵の根本のさらに下に一本の斜めの線を足した。



「この様に倒す方向に向けて徐々に深くなる様に柔らかくしてあげれば」



手に持っていた棒を靴の爪先の丸みを帯びたところに置き、



「後は自重で勝手に倒れます」



カラン



いつの間にか大勢の人が集まっていた。その全ての人達の眼が軽い音を立てて倒れた棒を見ていた。



静寂



きっと今、目の前で起きた出来事とそれに対しての説明を各々が咀嚼している最中だろう。そんな中静寂を破って声を掛けて来た。親方さんだ。



「取り敢えず今日は全員枝打ちに回ってくれ。ある程度数が纏まったら塀造りも並行してやっていくつもりだ。俺はこれから工程の組み直しをする。門が開く前には報告できる様にするからそれまで作業を続けてくれ」



言い終わるとみんながみんなそれぞれに散っていく。それを見送ると親方がこちらに向き直る。



「にいちゃん、それと嬢ちゃん方。話がある。すこしいいか?」



いつの間にか姉妹が近くに来ていた。僕は二人を見てから親方さんに了承の意を告げるとみんなでその場を後にする。





















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